海
あふれない
ゆっくりと溜まる 海
げっそりとやせた顔 傷跡のくぼみ
がっくり落ち込んだ農夫のまなこ
その影に 海
開かない 乾いた唇 開かない
監獄にも 海
溜まる 海
とても小さい 静かな 怒りの海
あふれはしない 波立ち
引き裂かれた体へ蝋燭の灯が染み入る
身もだえる 身もだえる 圧制よ
時には踊りだす海 きらめく されど
月明かりもない海 燃えない海
とても小さい 圧政よ
静かな 怒りの海
ある日突然あふれだす海
あふれればすべてを飲み込む 慈悲のない海
たゆみなく 音もなく 深く流れ
地を掘る腕に 目に 唇に
胸に少しずつ 溜まる海
今はまだ来ない 嵐の海
(「金芝河全集」より)
キム・ジハ
南朝鮮の詩人。1941年生まれ。独裁権力に抗し、投獄、死刑求刑などの辛苦をなめながら良心的な活動を続ける。詩集に「黄土」ほか。(訳・姜和石) |