現場から−梁英哲(弁護士・27)

あきらめない強い意志

同胞社会再生のキーワード


 大阪で弁護士を始めて9ヵ月目になります。同胞からの相談・依頼を多数受けましたが、もっとも多い案件は、借金に関するものです。とくに今年に入ってから増えています。大阪の民族系金融機関がすべて破たん状態になり、同胞社会の金融仲介機能が麻ひしていることのひとつの表れと言えるでしょう。

 借金に関する相談には、相談者の立場の違いから大きく分けて3種類あります。@貸し手側からの相談A保証人からの相談B借り手側からの相談――です。

 貸し手側からの相談では、借り主も同胞、貸し手の金主も同胞であることが多い。ほとんどが利息制限法のみならず、サラ金の金利をもはるかに上回る違法金利による貸し借りであり、また金額も数100万、数1000万円と高額であることも珍しくありません。

 保証人からの相談も、親兄弟、親せき、同胞社会特有の密接な人間関係を背景に保証したという事例がほとんどです。事業資金の保証の場合、保証額も高額になります。相談を聞いていくと、主債務者の事業が破産状態になった後に借入を起こすために保証していることも多々あります。

 借り手側の相談でもっとも多いのが、零細事業者の破産です。不況型の破産が多いのも事実ですが、帳簿作成や合理的な収支計算などを怠っていることが少なくありません。一般論として、事業の開始・拡大に比べて、その廃止・縮小の判断は難しいと言えます。

 在日1世は、持ち前のバイタリティーと不屈の精神で多くの事業を起こし、成功させてきました。2世、3世以降の世代には、そうした精神にプラスして、状況に応じた合理的判断で危機にある事業を再生させるための能力も要求されているように思います。

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 借金の問題に法律家として力を貸す場合は、任意整理、破産、民事再生が中心となります。サラ金や高利商工ローンのような高金利業者からの借入が多く、かつ取引期間がおおむね3年以上の長期にわたる場合は、任意整理・民事再生により、債務が想像以上に減縮することがあります。

 このような高利業者は借主に対し、「借りたものは返すのが常識だ」との心理的圧迫をかけることが多々あります。しかし、そもそも利息制限法を超過する金利はいかなる場合でも法律上無効です(なお、貸金業法43条の、みなし弁済規定を適用できる事例は実務上きわめてまれであり、同規定の適用があっても利息制限法を超過する金利が無効であることに変わりはない)。常識に反するのは業者の方です。借金問題を解決する際には、正確な法律知識で武装することが意外に大切です。

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 同胞の借金問題の相談を受けて思うのは、現在の困難な同胞社会の経済状況から好材料を見つけるのは困難だということです。しかし、まったくないわけではありません。それは、困難な問題に直面していながら、あきらめない強い意志をもった同胞が意外に多いということです。

 そのような意志を、私は「朝鮮人根性」と呼んでいます。1世はそのような「朝鮮人根性」で、人権も財産もすべて奪われた日本で同胞社会を作り上げてきました。その根性は2世、3世以降の世代にも確実に受け継がれているはずです。「朝鮮人根性」は、過去から現在にいたるまで確実に存在し続けた同胞社会の原点です。そしてその原点は、同胞社会再生のキーワードになるはずです。

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