医療−最前線

プロの言葉遣い


 病を持った患者は肉体的にも精神的にも弱者と言える。このような患者を治療する事によって病状を改善し、命を救うのが病院である。

 しかし、最近の医療事故などで病院に対する社会的な信用はがた落ちである。そんな中、私が勤務する病院では患者が安心して診察を受け、入院生活を送られるよう常日頃心がけている。ある日、信じられない光景を見た。看護婦が以前、自分が担当し、久しぶりに廊下で会った患者に対して「やせたねー」と声をかけていたのだ。

 本人は何気なく言ったのだろうが、私は非常識な言葉だと思った。病院に通っている人が、普通「やせた」という言葉を聞いてうれしく思うだろうか。私はドキッとしてしまった。最近、若い看護婦の言葉遣いが乱雑だと感じることがある。丁寧語でなく、仲間同士のように患者に声をかける者もいる。本人たちは、そのことで「親しみ」を感じてもらえれば、と言うが果たしてそうだろうか。温かい人間関係やコミュニケーションは、やはり温かい言葉から生まれると思うのだが…。

 病院では使ってはいけない言葉がある。闘病生活の末、亡くなる人もいるが、病院では「亡くなった」「死亡した」という言葉は使わない。病院職員は通常「ステルベン」(ドイツ語で死亡した患者を示す)という言葉を使う。亡くなった患者や遺族に配慮してのことである。

 病院での言葉遣いだけに限らず、普段から相手のことを慮って会話する習慣をつけたいもの。プロならなおさらの事である。
(李秀一・医療従事者)

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