ニュースの眼
「つくる会」教科書採択阻止を
各地で一進一退の攻防戦
侵略の過去を知っている世代、そして比較的若い人が協力的だという(街頭で署名運動を行う「親の会」メンバー) | 区の教育委員会に対し、第1次分として6234人分の署名を提出する「<つくる会>の教科書採択に反対する杉並親の会」代表ら |
内外の非難にもかかわらず文部科学省が検定に合格させた「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)の中学歴史教科書。現在、採択に向けた動きが焦点となっている。採択とは、検定を通過した各種の教科書から、各学校がどれを使うか選ぶこと。国・私立は各学校長が採択し、公立については地域ごとに採択することになっている。来年度から使用する教科書の採択の締め切りは8月15日で、7月中にはほぼ結果が出そろう。すでに複数の私立学校が「つくる会」教科書の採択を決めている中、日本各地では、行政と結託して制度の改悪まで図り「つくる会」教科書の公立校での使用を目指す勢力と、それを阻止しようとする市民らの一進一退の攻防戦が続いている。
「出来レース」 「つくる会」とそれを支える日本の右派勢力は、教科書の作成と同時にその採択までを目標に定め、全国10%のシェアを目指して周到に準備を進めてきた。 東京都杉並区では昨年3月、現場教師の投票による従来の採択方法から、教育委員会の意のままに採択できるような方法に改められた。以前までの採択区と呼ばれるいくつかのブロックごとの採択から各市区町村ごとの採択に変わるという制度の変更があり、採択方法もそれぞれの市区町村にゆだねられたのを受けての措置だ。 形式上は、各学校の意見と、現場の教師も参加する科目別調査部会の意見が選定審議会の報告書に反映され、教育委に上がるようになってはいる。しかし関係者によると、これらの報告書は「参考に過ぎない」とされているうえ、「公平を期する」という口実で推薦も比較も順位づけもできないような形式になっているため抽象的な内容にしかなりえない。また報告書の量は膨大で、教育委員がすべて読むことは不可能に近く、結果として教育委員の判断によって採択教科書を決めるシステムになっているのだという。 さらに同年11月、同区の教育委員5人のうち3人が解任され、「つくる会」に近いとされる人物2人が新たに任命された。今年6月になって補充されたもう1人も、「『つくる会』教科書に共感している人物」(関係者)だと見られている。 制度の改悪と人事の入れ替え。「最初に結論ありき」の「出来レース」だと批判されるわけである。 知事の「ハッパ」 こうした動きの背景には石原都政の後押しがあり、他の市区町村でも同様の事態が起きている。 東京都教育委員会は今年2月、@中学社会科は、わが国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てるなど、新学習指導要領に示されている目標等を最もよく踏まえている教科書を選定することA教育委員会は、自らの判断で採択すべき教科書を決定することB教職員の投票によって採択教科書が決定されるなど、採択権者の責任が不明確になるおそれのある規定があるときは、速やかにその規定を改正すること――などを内容とする通達を市区町村に出した。 「つくる会」の発足当初の賛同人でもあった石原慎太郎都知事は4月、都庁で約300人の教育委員を集めて開かれた教育施策連絡会で、教育委員会が自分の責任で教科書を採択すべきだと強調。「自分の良識で採択する。これだけはみなさんの責任で行ってほしい。そうでないとこの国は滅びますよ」とはっぱをかけている。 日本はどうなる 杉並区では、こうした動きを憂慮した市民らが「つくる会」教科書の採択阻止へ動き出した。今年4月、「見るにみかねてだまっていられず」署名運動を始めたのは、「『つくる会』の教科書採択に反対する杉並親の会」だ。中心メンバーは普通の母親たち。歴史の真実を学ぶことは子どもたちの権利であり、子どもの真の幸せを願う者として「つくる会」の教科書を使わせることは断じて許せないと立ち上がった。 会のある母親は「政治や社会問題にかなりにぶい私でも危機感を感じる。日の丸・君が代の強制を見ていてもそうだが、今、子どもの教育ではもっとやるべきことがたくさんあるのに、なぜこんなところにばかり力を入れるのか、本当に不思議だ。日本はどうなる?なんとかしなくてはと思った」と語る。 毎週の署名運動のかたわら、区議会や教育委員会の傍聴、教育委員会人事に対するたび重なる申し入れなど、活発な活動を続けてきた。署名は今月4日現在で8493人分が集まっている。先月27日には第1次として6000余人分の署名を教育委員会に提出した。 先月11日には、「歴史わい曲を許さない! アジア連帯緊急集会」および文部科学省を取り巻く「人間の鎖」にも参加するなど、活動の幅を広げている。今月7日には東京大学の小森陽一教授らを招いて集会を開き、今後の対策についても話し合った。 日本各地で、こうした運動が起きている。「つくる会」の教科書を検定合格させた日本政府は、良識ある市民らの声に耳を傾けるべきだろう。(韓東賢記者) |