それぞれの四季

心のこもった一言を

金発任


 日頃、何かと病院のお世話になる機会があるが、いろいろと考えさせられることが多い。

 先日、初級部6年生になる長男の視力検査のため、大きな眼科病院へ行った時のことだ。

 検査の最後に医師の診察を受けるのだが、先に呼ばれた、つえをついたおぼつかない足どりのおばあさんが、看護婦に支えられてやっと医師の前に座っていた。

 若くてきれいな顔立ちの医師は何か困った様子。おばあさんに、私たちもなぜかハラハラ…。

 その直後、医師はどうも堪忍袋の緒が切れてしまったらしく、大きな声を張り上げて怒ってしまったのだ。

 看護婦の介助でどうにか診察をすませ、口早に病状を説明する医師に対して、おばあさんは疑問点を遠慮がちに聞く。やはり面倒くさそうに、子供をたしなめる様な口調で答える医師。それを聞いてますます背中が丸まっていくようなおばあさん。

 思わず私たち親子は顔を見合わせてしまった。

 「あの先生もいずれはおばあさんになるのにねぇ…」

 つい口からもれてしまった私の言葉に、息子は静かに「うん」とうなずいた。 弱い立場の相手に、せめて一言、心のこもった言葉をかけられたらと思う。

 先程のやりとりに恐れおののき、とても従順に診察を受ける息子の姿に、笑いをこらえつつ自問してみた。

 子供たちのオンマとして、日常の何気ない暮らしの中で、心のこもった一言、言えていますか。反省、そしてタメ息…。
(名古屋市在住 「トングラミ通信」元編集者)

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