旬の女性たち
今どきの在日同胞女性孝
在日の同胞女性たちが、家父長制封建社会を引きずる自らの精神的呪縛に気づき始めたのは、いつ頃からだろうか。古いしがらみを捨て主体的に自分を生きる女性たちは、21世紀の入り口で、「旬」を迎えたようだ。(姜和石記者)
幸せになるために 奈良市内でカウンセリング・ルームを営む朴才暎さん(45)が、フェミニスト・カウンセリングを学び始めたのは、40歳を前にしてのことだった。結婚、出産、子育て…。「女性としての幸せ」を味わう日々にも、心の奥では「何か」が常にくすぶっていた。 「本当に幸せなのか?」 その正体をつきとめるべく彼女がとった方法は、民族を「人の心性(精神のありかた)」で見るアプローチだった。 「侵略する側とされる側―朝鮮と日本の歴史をたどると、明治の頃から2つの国の明暗がくっきりと分かれていく。なぜなのか。近代化が遅れた理由も含めて考えた時、その時代の人々がどのような心性で日々を生きたのかを知らなければいけないと思ったし、そういう意味で『民族性』というものにとても興味を持っていた」 結果、彼女の目が捉えたものは、朝鮮女性が、侵略される「以前」も男尊女卑思想の支配のもと社会的に悲惨な状況に追いやられていた事実であり、さげすまれ続けるうち、どんな「理不尽」をも「それが人生ってもんだ。みんなやってきたんだから」とあきらめる術を身に付けてしまった先代たちの姿だった。そんな過去や現在を未来に繰り返さぬようにとの思いが、フェミニスト・カウンセリングへの道を選ばせた。 「『女だから』という思い込みやすり込みに流されず、頭を明せきにして考える。そして『おかしい』と気づいた当事者が声をあげなければ。幸せになるために」 個の尊厳獲得へ 日本では一昨年、男女共同参画社会基本法が制定された。男女の個人としての尊厳を重んじ、「みんなが主役の社会を目指す」(総理府男女共同参画室パンフより)ものだ。 ジェンダー(歴史的・社会的に形作られた男女の性差)の解放へ。世界の流れをくむこのような認識を、若い在日同胞女性の多くがとっくに獲得している。 外資系企業で働く紀香(仮名、33)は、3ヵ国語に堪能な個性を生かし世界各国を飛び回る日々を送る。娘を遠くに出す「親の心配」をよそにハツラツと働く彼女のモットーは「女性としてではなく、人間としていかにキレイに生きるか、いかにかっこよく生きるかってこと」。その感性は、男性優位の社会構造よりも、むしろ女性たち自身の内に作り上げられた「らしさの枠」をとらえる。 「誰かに支えてもらっていなければ心のコントロールができない。たとえ自信があっても、最後まで自己を全うしようとはしない。根底には『女らしくないから』という意識があるはず」 意識の「枠」を軽やかに飛び越えたこのような女性たちは、目下、総聯の枠からもはみ出した存在といえる。 明華(仮名、29)は、日本の企業で働き始めて4年目。地域には朝青時代からの友人も多く同胞社会との関わりを常に大事にしてきたが、近頃解せない疑問にぶつかった。 「そろそろ朝青は年齢的にきつい。かといって女性同盟は既婚者の集まりだし…。仕事柄参考にもなるので青商会に参加したいと言ったら女性はダメだと断られた。これって結婚しないと同胞コミュニティーに入れないって事ですか?」 朝青の年齢制限は現在28歳まで。青商会に「女人禁制」の規則はないが、事実上男性中心の組織になっている。若くないシングル女性の存在そのものがタブー視されている空気感がある。ますます進む同胞社会の多様化は、このような女性たちと無縁ではありえないはずだが、現状は彼女たちの多様な価値観を肯定し受け入れていく積極性を欠いているように映る。 主体的に生きる それぞれの立場から同胞社会に向けて問題提起をする彼女らの声は、決して第三者的な立場から発せられてはいない。彼女たちに共通するのは、同胞社会の一員として主体的に生きようとする姿勢である。 「現状は、私たちが描いている世界より軽く100年は遅れていると思う。だからって愛情がない訳ではない。むしろその世界に何が欠け、自分に何が出来るかを考える」(紀香)、「男尊女卑、年功序列、進取の気性の欠如…自分を生きようとする時、日本社会にも同胞社会にもまだまだ弊害はあるけれど、私は私として社会に貢献できる人間を目指したい」(明華)。 しなやかに進化する女性たちは、自らの人生の主人公をしっかりと演じ始めた。 |