それぞれの四季

娘の宿題

姜龍玉


 只今娘はピカピカの1年生。ハルモニに買ってもらったランドセルを背負うなり後ろにひっくり返った初登校の日より早三月半、毎日意気揚々とハッキョに通っている。

 「宿題は?」、「時間割は? えんぴつ削った?」と毎日のようにせわしいオンマを尻目に、あせる様子もなくのんびりと机に向かう娘の宿題をのぞきこんでいたある日のこと。

 四肢をつっぱってのびをする猫のようにのん気にあくびをしていた娘も、いざ机の前に座ると表情は一変し、ノートとにらめっこするように一点一画力を込めてウリマルの単語を書いていた。その横で私は時折誤りを指摘しながら何気なく言った。「オンマ、ずっとクゴソンセンニム(朝鮮語の先生)だったのよ」。

 すると、ピタリと手元を止めた娘がおもむろに、殊のほかおどろいた顔色でふり向いた。そしてつぶらな瞳で私の顔を見据えたまま、はっきりしたウリマルでこう言ったのである。

 「オンマ、ウリマル チャル アムニカ?」(オンマ、朝鮮語が上手なの?)

 私はこの突拍子もない問いにキョトンとしたが、少したってからハッとした。この子と私の普段の会話のほとんどは日本語である。明らかに彼女は教室の机に座って仰ぎ見るウリマルの流暢な担任の先生と、ややもすればあまり上品とは言えない広島弁で小言をいうこのオンマを比べているに違いなかった。

 大学まで16年間、ウリマルをひたすら勉強し、その母国語を愛してやまないと自負してきた私は、6歳の娘の厳しい眼差しを前にして、少々なさけない思いであった。(主婦)

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