ざいにち発コリアン社会
やりたい事、やれる事を
3回目の自主企画ライブ「ヒャンV」・金剛山歌劇団の若手奏者たち
民族楽器楽しみ、可能性広げる
金剛山歌劇団(東京・小平市)の若手奏者らによる民族楽器ライブ「ヒャンV」が14日、東京・渋谷のライブハウス「QUON」で開かれた(午後4時〜、8時〜の2回公演)。民族楽器で楽しもう、その可能性を広げようと、試行錯誤しながら様々な試みに挑戦してきた「ヒャン(響、向、郷、香などの朝鮮語読み)」も、98年8月、昨年3月に続いて3回目。反応も上々でリピーターも増えている。「V」は初の地方公演(21日、長野・松本市のホテルブエナビスタ)も敢行する。自分たちも楽しめる公演をと行動を開始し、模索してきた出演者たちに「『ヒャン』って何?」と聞いてみた。 感じるものを追求 中心的存在の河栄守さん(31)はマルチプレーヤー。元来はチャンセナプ奏者だが、チャンゴなどの民族打楽器も叩き、歌も歌う。 「時代に合った公演を、自分たちで立ち上げてみようというのが最初。ここまで来るには困難も多かったし、今もまだまだだと思うが、気持ちだけはある」 歌劇団だから言わば全員プロ、公演が仕事。でも年間を通じてツアーを行う大規模な本公演は、大所帯だけに基本的に分業制だ。しかし、今を生きるプロの音楽家として、自分たちで公演自体をプロデュースしてみたい欲求があった。世代交代の中でお客も多様化しており、もっとフレキシブルに、様々な形態があってもいいと思った。その一つの答が「ヒャン」だ。 でも、まだ答とは言えないかもしれない。「試行錯誤」「模索中」という言葉が多くの出演者の口から出た。キーボード奏者の高明秀さん(41)の表現を借りると、「実験的要素を持つ場」。高さんは、それぞれが「これやりたい」「あれやりたい」と持ち寄る無理難題を実現するためのアレンジに毎回苦心する、言わば影の立役者だ。 「在日同胞として生まれ、民族教育を受けた朝鮮民族として感じるものを追求していくのが目標だ。だから今後は、オリジナル曲も作っていきたい。挑戦しなくては」 同じく「挑戦」を口にしたのは、チョッテ(横笛)奏者の李在洙さん(26)。「自分のやりたいものを持って挑戦し、自分たちで作り上げていく場が『ヒャン』だと思っている」。 「やりたい気持ち」とは若干違う角度から語ってくれたのは、ドラマーの金貞植さん(28)だ。「『やりたいこと』ではなく、『やれること』があるはずだというのが『ヒャン』に向かう気持ちとして大きい。歌劇団器楽部の可能性を広げる場でもある」。 金さんの叩く軽快なマーチングドラムのリズムに、6つのチャンゴでチャンダンのリズムを重ねた迫力あるリズムの競演、「ザ・マーチ・オブ・チャンゴ」は今回の一番人気だった。これも、可能性を広げるための試みのひとつだったのだろう。 「古い伝統的なものを追求するのも大切だし、同時に、歌劇団で用いている民族楽器が現代朝鮮で改良された楽器であるからこそできることもある」と語るヘグム(胡弓状の弦楽器)奏者の河明樹さん(24)は今公演で、テレビコマーシャルなどでも知られるピアソラのモダンなタンゴ曲をソロで披露する一方、踊りながら民族打楽器を打ち鳴らす伝統的なスタイルの演奏にも加わった。 「僕はまだ『こういう場』と決めつけたくない。それぞれの『ヒャン』を見つけてほしい。試行錯誤の段階だし、お客さんも含めてみんなで一緒に考えていく中でこれからの可能性が見えてくると思っている」 固定観念壊したい 「とにかく楽しみたい」。現段階で、それが観客を楽しませることでもあるはずだというのが全員の共通認識だ。 エレキベースを抱え、ウッドベースを揺らし、全体のリズムを支える安英愛さん(24)は、「何をやるにも楽しく、と思っているけど、『ヒャン』はとくに。演奏会というと身構えてしまう人にも、気軽に聞いてほしい。楽しんでください、というのがメッセージです」と話す。 「模索中だから」と口数の少なかったプク(太鼓)・クェンガリ(鐘)・チョッテなど担当の姜年浩さん(26)も「こっちが楽しければ、お客さんにも通じると思う」と語る。 「もしかしたらある種の自己満足かもしれない」と、もっとストレートなのは、チャンセナプ奏者の崔栄徳さん(26)だ。「小さい時からずっとチャンセナプがそばにあった。自分はこれがやりたい、楽しいということをやっているだけ。民族楽器はこういうものだという固定観念を自然な形で壊していきたい」 感想文を見せてもらったが、「楽しかった」という感想は多かった。彼らの試みは、着実に受け入れられつつあるようだ。 チャンゴやテピリ(縦笛)の李在浩さん(29)は、「お客さんの受け止め方は一人一人違うと思うが、どんな形でも、ほんのさ細な何かでも、前に進んでいくための力になってくれればうれしい」と話す。 「場所、そして何よりお金の問題…。公演ひとつ行うのは簡単なことではないが、今後、地方の同胞にも見てもらい、様々な意見を取り入れながらさらなる模索を続けていきたい」(河栄守さん)(韓東賢記者) 公演の問い合わせ=ヒャン事務局TEL 090・6343・8658、金剛山歌劇団TEL 042・341・6411(「ヒャンU」はCD化されている。その問い合わせも) |