地名考−故郷の自然と伝統文化
済州島−(3)民謡
多い「踏田歌」などの労働歌
司空俊
西帰浦 | 韓拏山の花木 |
済州地方には「江南から」という民謡がある。
/南国からやってきた小鳥よ/日本からやってきた小鳥よ/きょうは帰路につく 明日になれば帰って行くと さえずっていたのに/青い竹の葉に 冷たい夜露が降り/羽を濡らして 飛べずにいる せめて、このような歌をうたって自らの境遇を慰めていたのだろう。その気持ちはなんとなくわかる。とくに1世には。 また、こんな歌もある。 /古寺を繕う お金があるのならば/客をもてなす お金があるのなら/ひもじい私を助けておくれ/おまえの子孫に巧徳があるよ 「古寺修備」という民謡だが、何ともやりきれない歌である。この歌をうたうときはどんな気持ちになるのだろうか。 「官長生活」という歌がある。官長とは百姓が地主、領主を呼ぶときの言葉だ。 /地主も百姓も、みな、死ねば同じじゃないか/せめて生きているうちに、大事にしておくれ、といった内容の歌である。 そのほかにも「踏田歌」(土踏みの歌)という歌がある。済州島の地表は火山灰土に覆われており、強い風が吹くと土が飛ばされてしまう。それで、粟などのような丈夫な種をまいた際には、その後から数10匹の牛に土を踏ませるのである。こうすると種が土深く入り込み、風に飛ばされなくなり、表面に出てしまうこともなくなるのである。 このときに歌われるのが「踏田歌」だ。このような労働歌には「粉ひきうた」「野良仕事のうた」「米つきうた」などもある。 また「オドルトギ」という民謡がある。オドルトギは翁草(おきな草)のことである。済州島では「ハルミ(おばあさん)の花」ともいう。春に暗赤紫色の花が咲く。 次のような歌詞だ。 /オドルトギ あの春の香りですよ/月も明るく 私が先にお嫁にいきましょうか (繰り返し) ドンギテ タンシル/あなたは髪を結い お嫁にいく/月は明るく 私もお嫁にいきましょうか/行くなら 行かんせ/よすなら よしゃんせ/わらじ履いては お嫁にいけましょうか/漢拏山 頂上の 木の実は熟れたやら/西帰浦の海女は海に潜ったか まだか/城山浦の日出峰 日の出 みごと/城内の沙羅岬 日暮れ みごと 繰り返しの「ドンギテ タンシル」は「はやし」だが、「童妓大当室」という字があてられる。つまり、「童女が成長して妻になる」という意味である。この歌は冬の間、家の中に閉じ込もっていた娘たちが、春になり戸外で遊ぶとき、集まってうたう歌である。振り付けもあるという。 |