女のシネマ

「こどもの時間」

洟をたらした精霊たちの躍動


 埼玉県桶川市郊外のいなほ保育園。4000坪の土地に雑木林が広がり、起伏が富んだ園庭には塀がない。周囲の野原や小川も取り込んで、放し飼いされたヤギや馬とともに、洟(はな)をたらした裸足の園児たちが生き生きと駆け回る。そんな保育園の暮らしをじっくり見つめたドキュメンタリー映画。

 映画のファーストシーンは卒園式。卒園証書を誇らしげにかざしてホールを一巡する卒園児。満面の笑みが心をとろかす。そこから一挙に6年の歳月をさかのぼる。

 季節は冬。赤々と燃えるたき火に迎えられて子どもたちが登園してくる。0歳から6歳まで、100人の園児を抱えるいなほ保育園には決まった日課がない。各自のリズムにあわせて、遊び、食べ、眠る生活の毎日だ。

 その暮らしは驚くほど原初的で、四季の彩りに満ちている。たき火の冬、種まく畑の土の薫る春、濃い緑と水の心地よさを五感で味わう夏、おそい夏祭りのあと足早に来る再びの冬、やがて巣立ちの季節。

 食彩も豊かだ。たき火で焼いたサンマに香ばしいおこげ。氷点下の園庭で味わうみそおでんの甘い香り。ひな祭りのちらし寿司。散歩の途中のもぎたてトマトの新鮮さ。

 もちろん、暮らしの中心は遊び。梅雨が明けるとお父さんたちがプールを作る。飛び込み潜り、みんな魚になった。園長先生が読み、聞かせてくれる絵本や紙芝居、カブト虫採り、竹馬、動物の世話、節分の鬼退治…。ケンカもし、仲直りもして、毎日の暮らしの中で必要なことは皆身につけてゆく。巣立ちの時までに。

 生まれてから就学までのこの「こどもの時間」を「人生のはじまりの時間」という。

 どの場面も珠玉のように美しい。子どもの可愛らしさを堪能させてくれる。木の精、水の精、火の精となる子どもたちの躍動を見るのは至福の時。

 野中真理子監督。80分。BOX東中野にて。マザーランド(TEL  03・3497・0140)。(鈴)

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