取材ノート
まだ希望は失われていない
「敗北感は否めない」
7月初めに東京で開かれた、日本の右傾化を憂慮する在日同胞学者のシンポジウム。ゲストとして招かれた日本人学者は発言の冒頭でこう言った。「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史わい曲教科書が文部科学省の検定に合格し、いよいよ次は教育現場に持ち込まれる採択の段階になったという事態に直面しての言葉だ。 彼は、近年のネオ・ナショナリズム勢力の台頭と社会への浸透ぶりに対して、論壇で問題提起し続け、運動の現場でも積極的に発言し、誰よりも誠実にたたかってきた一人だ。そんな人が敗北を口にするなんて、私には衝撃だった。現在の事態は、良識派学者の心にこれほどまでに重い影を落とす、それほど深刻な事態だということなのか。そうだとしても、自ら敗北を口にしてはいけないのではないだろうか。 「私だって楽観的なわけではない。ではどうする。たたかうしかないし、たたかえば明るくなれる」 こう笑顔で励ましたのは、やはりゲストとして招かれた在日同胞1世の作家だ。 そう。われわれ在日同胞は、解放後からつねにそうした勢力の攻撃の対象とされてきた。ここ日本で、いったい何がどうなれば勝利だというのか。勝利だとか敗北だとか悩む暇もなく、とにかくたたかうしかなかった。 確かに90年代後半から、日本の右傾化は急速に進んだ。何よりも怖いのは、そうした意識が抵抗なく社会に受け入れられているように見えることだ。 でも本当にそうだろうか。もう敗北を認めるしかないのか。 7月半ばから公立学校での教科書の採択審議が各地で本格化しているが、「つくる会」の教科書は、ほとんど不採択になる形勢だ。その背景には、この教科書の使用に強く反対する市民らの声がある。まだ希望は失われていない。(東) |