ざいにち発コリアン社会
冷凍朝鮮餅のアイデア
栄伸商会(岐阜・多治見)、池重典さん
工場の前に立つ池重典さん | 口コミで評判が広がり全国から注文がくる「コリアン餅」 |
キムチとともに在日同胞の冠婚葬祭に欠かせない朝鮮餅。根強いニーズに、つき立ての餅を瞬間冷凍するアイデアを生かし、全国からの注文に応じている(有)栄伸商会(岐阜県多治見市)。代表取締役の池重典さん(55)は、「朝鮮の食文化を守っていくためにも餅を生産し続けたい」と意欲を見せる。
手作りの小豆 3階建てのビルの1階にある工場。冷凍庫の中は1分も我慢できないほどの寒さだ。そこに大量の餅が保存されている。 特殊技術でつき立ての餅を瞬間冷凍。鮮度はまったく損なわれない。 生餅の場合、3、4時間経つとどうしても固くなってしまうが、冷凍の場合、保存が効き、いつでも解凍してつき立ての食感が味わえる。衛生的でもある。 そのため北は北海道から南は九州まで、全国から注文が絶えないという。 「餅と言えば正月を思い浮かべるが、在日社会ではお中元やお盆のチェサ(祭祀)、披露宴、結納などに使うからと、夏冬関係なく1年中注文が来ます」(池さん) それでもやはり1番注文が多いのは年末で1日平均7、800本、多い時で1000本をさばくという。年間では1日平均、150〜200本。同郷の集いで使うからという民団同胞や、ロッテプラザなど日本のホテルからの注文もある。 池さんの餅の評判がいいのは、もちろんおいしいからだ。小豆、きなこ、白いんげんの3種類ある。味の秘密は小豆。「うちの小豆は一つ一つ手作り。小豆が命です」と話す。 出発はアイス もともとは20年ほど前に始めたキャンディー屋が出発点だった。四国にある日本人製造業者の下で2ヵ月間修行した後、機械を購入し、洋菓子店、スーパー、サービスエリア、自然食品の店などに卸した。商品開発は池さんの仕事。今でも販売しているアイスまんじゅうはイチゴ、ミルク、抹茶味の3種類で、アイスキャンディーはコーヒー、オレンジ、フルーツ、ミルクなどがある。 だが、キャンディーが売れるのは夏場に集中する。何とか年間を通して売れるものはないかと考えていたところ、取引先の地元大手スーパーから、餅を販売してみないかとの話があった。売り上げはそれほどかんばしくなかったものの、朝鮮餅を販売するという発想はその後も生かされる。 名古屋にある同胞の乾物屋に卸したところ、これが飛ぶように売れた。4年ほど前の話だ。 「総聯組織の力というか、枝の広がりがすごかった。お歳暮やお中元など注文が殺到するようになった」(池社長)という。 そこで始めたのが冷凍餅。新鮮な餅を広い地域に販売展開するためだった。 しかし、最初の2年間はまったく売れなかった。売り上げが伸びるのは生餅だけ。だがひょんなことから少しずつ売り上げが伸び始める。 「解凍した状態のものをもらって食べた人が、冷凍と知らずにおいしいと。そこから少しずつ口コミで広がっていきました」と豪快に笑う池さんだが、試行錯誤の毎日だったという。「便利でおいしいのだから、必ず売れるという信念を捨てなかったから今がある」 朝鮮学校に還元 池さんが餅作りにこだわるようになったのは、在日社会で朝鮮の食文化を守っていきたいと思うからだ。 「民族性を守るうえで食べるということは非常に大事なこと。キムチやお餅など朝鮮の食べ物を食べてこそ、朝鮮人らしさも出てくると思う。子供たちが朝鮮の食文化も知らずに育っていくことは絶対に避けるべきだ」 そんな池さんだから、民族教育に対しても人一倍、情熱を傾け、商売を通じて還元もしている。女性同盟や朝鮮学校のオモニ会、朝鮮学校などには卸値で販売し、収益はそれぞれの組織が得られるようにした。 「お金もうけだけが目的じゃない。民族性を絶やさないためにも、代を継いで餅の販売を続けていきたい」(文聖姫記者) 冷凍餅は小豆、きなこ、白いんげんの3種類。注文は年中無休で受け付けている。送料自己負担。問い合わせ=(有)栄伸商会(TEL・FAX 0572・23・8684) |