春・夏・秋・冬

 祖国光復の日(8月15日)を迎えるたびに、在日2世のある女性から聞いた話を思い出す。現在60代半ばの彼女は、7歳だったその日、大きな農家の庭先で遊んでいた。その農家の開け放たれた座敷で、彼女の母をはじめ大人たちが、正座してラジオを聞いていた。雑音の混じった音がし、一瞬静まり返ったかと思うと、次々と大人たちがすすり泣きを始めたという

▼だが、彼女の母だけは無表情で立ち上がると、そっと座敷を抜け出し、彼女と妹の手をつかんで一目散に自宅へと歩き出した。自宅を目前にして、彼女の母は急にククッと忍び笑いを始め、しまいには「ヘバンテヨッタ(解放された)」と言いながら声をたてて笑い出した。家にかけこむや手拍子を打ちながら踊りだし、あげくの果てには声をあげて泣き出してしまったという

▼朝鮮民族にとって、8月15日とはそういう日である。国を奪われ、土地を奪われ、言葉を奪われ、姓名を奪われ、命まで奪われた、そんな植民地支配からやっと解放された日なのだ

▼「朝鮮人と言えば私たち一家しかいない状況で、母はとっさの判断で悲嘆にくれる日本人の中から抜け出したのでしょう。それでも、喜びの感情を抑え切れず、子供には異様に思える態度を見せたのだと思います」と前述の彼女は当時を振り返った

▼そんな日に、小泉首相は侵略戦争を起こした戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社への参拝を強行しようとした。内外の反発に押され、日にちは変えたものの、事の本質は変わらない。参拝自体が侵略戦争を肯定することにつながる。(聖)

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