地名考−故郷の自然と伝統文化

江原道−(4)ホミ洗い

田植え終え豊作願う

司空俊

月精寺八角九層石塔 江陵海岸

 江原道に「ホミ洗い」という行事がある。ホミというのは草取りや、移植したりするときに使う朝鮮独特の農機具の1つで、柄が短いのでしゃがんで使用する。最近日本にも「捻り鍬」として出回るようになった。

 陰暦7月15日頃、各々の部落が総出で酒食を共にする楽しい行事である。その年の農作業がもっともはかどった家のモスム(作男)を牛に乗せ、他の男衆がその周りを囲み、歌を唄い踊りながら部落をねり歩くのである。そのため、「ホミ洗い」を「モスムの日」、「農夫の日」などと呼ぶ。ホミ洗いをこの時期に行うのは、ちょうどこの頃に田植えも終わり、田畑の雑草とりも終わるので、ホミを洗って一頃休憩する時期にあたるからだ。

 解放前は、モスムにとっても楽しい1日であったろう。何となればモスムたちが歌をうたい、踊りながらねり歩き、地主の家の前に行けば、この日ばかりは「主人」が酒食のもてなしをしたからである。この日ばかりは腹いっぱい食べることができたことだろう。

 また、秋の収穫の楽しみが残されていたので余計に楽しかったことだろう。朝鮮人は元来、勤勉な民族である。

 豊作を願った「たいまつ戯」という行事がある。現代風にいえば勇ましい「火祭り」といったほうがぴったりくるかも知れない。

 陰暦正月15日の夕暮れ時に、部落ごとに分かれ一定のルールのもとに試合をした。この日、青年たちは昼間から火祭りの準備におおわらわになる。自分の家族の人数と同じ数のタイマツを萩の枝やワラでつくるのである。

 夕暮れになると部落ごとに近くの山に登り、寒い中で陣をはり待機する。

 合図とともに、自信のある者からタイマツに火をつけてとび出し、争うのである。もちろん、降参する者が多い部落が負けである。火が消えると試合は中止。勝った方の部落は豊作が約束されるというわけである。

 あちらの山でも、こちらの山でも、タイマツが赤く燃え、喚声がひびきわたるのを想像すると何とも雄大だ。髪を焦がすことはあっても、負傷者はほとんど見られなかった。

 江陵(カンルン)では李朝末まで、5月5日の端午の祭りに仮面戯を行っていたが、勇ましすぎるという理由で植民地時代に日本によって廃止されたという。

 江原道の方言

 嶺東は慶尚道と咸鏡道の影響を受けており、嶺西は京畿道と忠清道の影響を少なからず受けている。また、太白山脈の雪岳山とか五台山などでは、他人に知られたくないため、山参(山に自生する高麗人参)堀りをする住民の間で隠語もあるらしい。

 1、嶺西と嶺東で方言に差がある。

 嶺西  사내이(サネイ、男子)→사내아이(サネアイ)=京畿道系

 嶺東  사내이→모스마(モスマ)=慶尚道系

 2、외(we)の発音をはっきりする

 3、母音と母音の間の人(s)、(b)の弱化現象が認められる。

 가위(カウィ、はさみ)→慶尚道では가실(カシル)

 더위(トウィ、暑い)→慶尚道では더버서(トボソ)

 4、(ku)、(ku)の口蓋音化がみられる。(サゴン・ジュン、朝鮮大学校教員)

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