現場から−鄭明愛(在日外国人「障害者」の年金訴訟を支える会・31)
同胞聴覚障害者とともに
生活苦、差別…痛みを知ることから
昨年3月15日、聴覚障害を持つ在日同胞7人が日本政府を相手に京都地裁に訴訟を起こした。障害基礎年金を受けられない制度の矛盾を正すためだ。私は提訴後に発足した「在日外国人『障害者』の年金訴訟を支える会」のメンバーとして、裁判を支援している。
1959年に制定された国民年金法には当初国籍条項があり、国籍条項が撤廃された時に経過処置が取られなかったため、82年の時点で20歳以上だった外国人障害者は障害福祉年金(現在は障害基礎年金)の支給対象から外された。原告は日本政府による差別の犠牲者である。 大学の頃、卒業論文で在日同胞障害者問題を扱い、初めてその苦悩に触れた。無年金による生活苦、親せき、日本社会からの差別…。聞き取りを通じてこうした差別を目の当たりにし、ショックを受けた。しかし、その時は何もできなかった。 数年後、当時聞き取りをしたオモニとばったり会い、同胞障害者が年金差別の裁判を始めるので支援して欲しいと頼まれた。「具体的な支援ができる」―。助けを求められたことが嬉しかった。 ◇ ◇ 「支える会」は、口頭弁論が終わるたびに集会を開く。また原告団とともに合同例会を開き、裁判の進捗状況や争点について学んでいる。原告を支える輪を広げるため、様々な団体にも支援を呼びかけている。 聴覚障害とは、単に耳が聴こえないというだけでない。ろう学校では文章の読み書きに多くの時間を割けない事情から、原告の同胞は文章の読み書きが苦手だ。健常者でも難解とされる裁判書類を聴覚障害者が読み、理解することは難しい。原告に裁判について易しく解説する作業も「支える会」の役目だ。会が発行するニュースも彼らが読みやすいように字を大きめにし、漢字にはルビをふる。 裁判に関わりだして同胞障害者の思いや生活実態を知りたいと思い、手話を学びだした。その過程で障害者の住む世界が少しずつ見えてきたように思う。 例えば彼らの生活苦。原告団長の金洙栄さん(49)は、同じ聴覚障害を持つ妻、81歳のオモニも無年金だ。就職活動でも差別を受け、現在は3人の子供を育てるために兄と廃棄物収集の仕事をしている。 無年金の同胞は本当にしんどい思いをしながら生きている。いつか話をまとめ、彼らの生きた証を残せたらと思っている。 年金をもらいたいがために日本国籍に帰化する同胞障害者も多い。しかし、国籍を変えたところで年金は支給されない。障害者に認定された時点で日本国籍でなければならないのだ。問題は、このような情報が彼らにまったく伝わらないことだが、同胞障害者に正確な情報を伝えることも私たちの役目だ。 障害を持った彼らが単独で裁判をたたかうことは不可能だ。だからこそ、彼らの思いを多くの人に伝え、支える輪を広げたい。 秋にも全国の仲間とともに東京に赴き、厚生労働省に差別是正を求める予定だ。多くの同胞の励ましが欲しい。 |