こども昔話

屁っこき嫁ご

李慶子


 金さんのむすこが、となり村から嫁ごをもらってねぇ。

 色がすけるほどに白くて器量良し。そのうえ働き者ときたから、むすこはもちろん金さんもおかみさんも、たいそうかわいがった。

 ところがひと月も過ぎたころ、あれほど白かった嫁ごの顔が、きゅうりの花みたいに黄色くなって、体もこころなしか、ぷくり太ったような。

  「おまえ、どこかぐあいでもわるいんじゃないかい」

 みんなしてたずねると、嫁ごはにこにこわらって、

  「なんもなんも」

 とこたえた。

 ある日、畑仕事をしていた嫁ごが額に脂汗をにじませながらとつぜん苦しみだした。

  「やっぱりぐあいがわるいんじゃないかい」

 嫁ごを問いつめると、屁っこけねぇから苦しい、とようやく白状した。

  「なして屁っこけねぇ」

 おかしくて、腹かかえてむすこがたずねると、嫁ごの黄色い顔がぽっと赤くなった。

  「屁なんちゃぁ、なんも、がまんするこたぁねぇ」

  「そうとも、そうとも」

 金さんもおかみさんもそろってこういった。が、嫁ごはますますはずかしがった。

 屁っこけ、屁っこけ。

 なんどもいわれて、嫁ごはしかたなく、やれこの柱につかまれ、やれあの柱につかまれ、と注文つけて屁をこいた。

 嫁ごの屁はまるでカミナリみたいで、おまけに突風までつれてきてねぇ。

 屋根はふっとび壁はこわれ、たまげて柱にしがみつく金さん夫婦と息子に嫁ごは、

  「だからがまんしてたんです」

 と、すっきりした顔でいったって。

 屁っこけ、屁っこけといったものの、屁っこくたびに家がつぶれたんじゃ、たまらない。

 よくよく考えたむすこは、嫁ごを里にかえすことにした。

 その日はうんと暑くて、金さんとむすこと嫁ごの3人は、玉のような汗をかきながら、となり村につづく峠の道をのぼっていった。

 すると、枝いっぱいに実をつけた柿の木の下で、9頭の馬の背に絹織物をつんだ商人たちが休んでいた。

 のどが乾いていた3人も、柿を食べながら一休みすることにした。柿は思いのほか高いところにあって、馬の背にのっても木に登っても、いっこうに手が届かない。

 みかねた嫁ごはどこからかはしごをみつけてくると、それに上り、大きく広げた枝に向って屁をこいた。

 嫁ごの屁がおこした突風は峠を吹き抜け、柿だの栗だのしいの実をふりおとした。

 金さんもむすこも商人も柿を食べてすっかり元気になった。

 思いがけず栗やしいの実まで手にいれた商人は馬1頭と絹織物を置いて、

  「まっこと良い嫁ごじゃ」

 といいながら峠を下っていった。

 金さんとむすこははずかしくなって、嫁ごを馬にのせると村にもどっていったって。

◇                         ◇

 屁っこき嫁ごの話は京畿道、全羅南道、江原道、平安北道、忠清北道で分布している。江原道の話は里に帰された嫁が産んだ子が成人し、屁をこいただけで婚家を出された母への理不尽な仕打ちを、父に説く話となっている。

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