春・夏・秋・冬

 「とうとうわが国もルビコン川を渡る決意をしたようだ」「いよいよ参戦か」。帰宅途中の電車の中、会社員とおぼしき初老の会話が耳に飛び込んできた。「わが国」とはむろん、日本のことである

▼古代ローマの武将カエサルが三頭政治を行っていた1人、ポンペイウス打倒を決意し渡ったのがイタリア中部、アドリア海に注ぐルビコン川だった。カエサルはエジプトにまでポンペイウスを追い詰めて滅ぼし、その後、独裁者としてローマを支配するようになった。しかし、畳の上では死ねなかった

▼同時多発テロの報復に燃え、軍事作戦を準備中の米軍。日本は時限立法を制定しその後方支援を行うことを決めた。敗戦後、米国によって軍隊の保持、一切の軍事行動を禁じられた日本は、皮肉にもその米国の指示によって憲法の拡大解釈を重ねて自衛隊という名の軍隊を持ち、ついには「日本有事」に限っていたその戦闘行為の範囲を、なし崩しに地球的規模に拡大しようとしている

▼カエサルではないが、1度サイを投げてしまえば呪縛は解かれてしまうものだ。例はいくらでもある。ナチスドイツは禁じられていた機甲部隊の創設に当たって、軍需転換が容易なブルドーザー生産工場の建設許可を第1次大戦の戦勝国からえ、それを機に戦車を大量生産し侵略に走った

▼米国支援論議の中では当初、朝鮮をにらんだ有事法制作りの前倒しが強く叫ばれた。それがくすぶったまま、日本の軍隊は出動していくことになる。その刃が近い将来、朝鮮に向けられることはないのか。非常に危惧する。(彦)

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