映画「民族と運命」シリーズ 「昨日、今日そして明日」
90年代の試練の日々 表面化した社会問題を題材に
1990年代初めに制作が始まったシリーズ映画「民族と運命」の最新作、「昨日、今日そして明日」(1部―5部)が朝鮮国内で公開され大きな反響を呼んでいる。
21世紀最初の年に公開された映画「昨日、今日そして明日」は、朝鮮がみぞうの試練に直面した90年代後半、「苦難の行軍」と呼ばれた時代を背景に、数奇な運命に翻弄されながらも明日への希望を捨てず、ひた向きに生きた3人の女性の姿を描いている。 映画は、苦しかった試練の日々を過度に脚色することなく、一般市民の生活体験に基づきリアルに描いていると評判が高く、上映館には多くの観客が詰め掛けている。「苦難の行軍」をテーマにした映画が広く受け入れられている現状は、過去の困難を乗り越えた国民の自信と、復興に向け躍動感に満ちる社会の雰囲気を伝えている。 生活体験をリアルに 「民族と運命」シリーズの第1作が上映されたのは1992年2月。現在公開中の「昨日、今日そして明日」(1部―5部)は同シリーズの52―56部に該当する。 朝鮮の映画関係者たちにとって「民族と運命」シリーズは数多く製作される国産映画の中でも「特別な位置」を占めている。金正日総書記はシリーズ映画の制作にあたってコンセプトとテーマを自ら設定し脚本、撮影、俳優の演技に対するアドバイスも行ったという。 金正日総書記は今回、完成したシリーズ最新作「昨日、今日そして明日」を観て「近年、制作された作品の中で最も実り多き作品」であり、とくに1部、2部は「非の打ちどころのない完璧な映画」と高く評価したという。 これまで「民族と運命」は、南の元外務長官で北に渡り天道教青友党中央委員長など要職を歴任した崔徳新氏、世界的な作曲家である尹伊桑氏、国際テコンドー連盟総裁崔泓煕氏など実在の人物をモデルにしたものが多かった。今回の「昨日、今日そして明日」には国民の誰もが知っているような実在のモデルは登場しない。 登場人物は金日成総合大学の同窓生であるキョンシム、ソンスク、プニの3人。大学卒業後、3人は就職、結婚とそれぞれの道を歩むが「苦難の行軍」時代、彼女たちは人生のう余曲折を体験する。 農業科学院の研究者と結婚したソンスクは、山間地帯の村に移り住み夫と共に食料問題の解決のため献身的な努力を続ける。プニの夫は農業委員会の幹部エリートであったが、外資稼ぎを目的に貿易会社に転職、プニは「ドルに誘惑された」夫、姑との関係に悩む。そして女性検察官として活躍していたキョンシムは食料問題解決を意図的に妨害する農業分野の「反革命分子」の犯罪を追求したが、彼らによって朝鮮戦争当時、彼女の祖父が「治安隊」に入っていたという過去の出来事が明るみに出る。その結果、検察官の職を追われ、家庭も崩壊の危機に陥ってしまう。 テーマは苦難乗り越える「信念」 映画「昨日、今日そして明日」は、朝鮮戦争当時、「治安隊」として働いていた父親を持つ人物が1970年代、金正日総書記に手紙をあてた実話が下敷きになっている。 幹部の不正腐敗、金銭欲に支配された利己主義的な生活様式、家庭の不和と離婚問題。映画は、食料、エネルギーの不足など、生活難が深刻化した「苦難の行軍」の時代を平凡な市民たちの体験談として語る。そして観客たちに試練の時代を生き抜くための「心の支え」、信念の問題を投げかける。 「昨日、今日そして明日」は、当初から「社会的問題作」として企画、制作されたが、そのための条件がすべて整っていたわけではない。映画は「苦難の行軍」時代に撮影された。国の経済状況が悪化する中、スタッフ、キャストは資材不足に苦しみながらも朝鮮北部の山間地帯での長期ロケーションを敢行した。 演出を担当した人民俳優パク・キョンジュ氏は「映画は社会的な矛盾や問題点も取り上げたが、基本はこの社会に生きる人々の美しさを描くことにあった」と語る。 外資稼ぎにのめり込むプニの夫を演じたユン・スンギュ氏は、映画を観た平壌市民たちから「真実味のある役作りに好感を持った」との評価を受けたという。彼はこの映画が好評を博した理由を次のように説明する。 「『社会主義固守』のスローガンは、つまり個々人の問題であり、それぞれの家庭で『非社会主義的な現象』に妥協することなく、き然と立ち向かっていかなければならないとうメッセージが、あの時代を生きた人々の共感を得ているのだと思います」 各地総聯組織で上映会 去る6月、「昨日、今日そして明日」の制作状況について報告を受けた金正日総書記は、それまで完成した映画のフイルムを総聯に送るよう指示を与えたという。 東京千代田区にある朝鮮会館で先週の金曜日、先行上映会が行われた。 映画「昨日、今日そして明日」の上映会は10月から各地の総聯組織でも一斉に行われる。 |