春・夏・秋・冬

 学生時代に、たしか「蒼き馬たちを見よ」というタイトルだったと思うが、19世紀末の帝政ロシア下、圧制打倒のために身を挺して皇帝ら要人暗殺に走ったアナーキストたちの群像をまとめたロープシンの本を読み、鮮烈な読後感を覚えた記憶がある

▼皇帝ニコライを頂点とした階級支配層の論理だけが社会通念、正義としてまかり通った、農民、商人、インテリなど被支配層に対する専制統治。見ることも、語ることも聞くことも禁じられ、階級支配層のテロリズム、つまり恐怖政治の嵐が国土全体を包んだ。行き場のない挫折感と閉そく感、その打破のために学生や労働者らは無謀な行為に走った

▼テロリズムの犠牲になった名もなき民衆たちは数知れない。ロシアを代表する作家ドストエフスキー一家にも累(るい)は及んだし、10月革命の指導者レーニンは要人暗殺未遂嫌疑で処刑されてしまった兄の死が革命に走った大きな動機になったという

▼連日の、米国の「同時多発テロ」報道の中で、実はこのロープシンの本のことがずっと頭の片隅の中で思い出され、テロという呼称の使い方に違和感を覚えていた。日本の友人の一人も「テロとは本来、権力を持つ側の恐怖政治を言うのではなかったか」という。念のために辞書を引くとやはり、恐怖政治とも訳されていた

▼瞬時に多くの人たちの生活を奪い取る、今回のような蛮行はとうてい許せない。しかしその一方で歴史をひもとくと、専制政治や帝国主義によるテロによって民衆のみならず国家までが犠牲になった事実が数知れず存在する。(彦)

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