今年の日本経済を占う
景気悪化、 不良債権増に拍車
卞栄成
今年の日本経済はどう動くのか。在日同胞の生活にも大きく関わるこのテーマについて、金融論を専攻する朝鮮大学校教員の卞栄成氏に解説してもらった。
弱肉強食の世界 1990年代は日本では「失われた10年」と言われているが、現在に至っても日本経済は依然として長期にわたる構造不況から脱却できていない。 こうした閉そく感が漂う状況のなかで、昨年4月に小泉政権が発足し構造改革を推し進めている。現政権は「構造改革なくして景気回復なし」というスローガンを掲げ、財政構造改革や不良債権処理などを早期に実施しようとしている。改革に伴う「短期的な痛み」に耐えて日本経済の構造転換を達成しようというわけだ。 しかし、こうした展望とは裏腹に、企業倒産の増大、失業率の上昇が加速度的に進行している。2001年の全国企業倒産件数は1万9164件で前年比2.1%増となり、年間数字としては戦後2番目を記録した(東京商工リサーチ調べ)。さらに、総務省の労働力調査によると、昨年11月の完全失業率は5.5%と戦後最悪を更新した。 銀行の不良債権問題も深刻で、貸出残高が減少し続けている。例えば、12月の金融5業態(都銀、長信銀、信託銀、地銀、第二地銀)の貸出残高は前年同月比マイナス4.3%になり、48カ月連続で前年同月実績を下回っている(日本銀行調べ)。日本の銀行は「雨が降ったら傘を貸してあげる積極的な融資姿勢」から「傘を取りあげる姿勢」に変わってしまったのである。 こうした背景には、景気悪化が不良債権の増大に拍車をかけていることがある。とくに、昨今生じている大手スーパーやゼネコンの相次ぐ倒産によって銀行が悪影響を受けている。「大企業向け融資は安全」という神話は崩壊しつつある。 筆者は、「企業の倒産は構造改革が順調に進んでいることの現れである」という意見には賛成できない。なぜなら、「構造改革宣言ゆえの不況」が進行しているからだ。「規制緩和万能論」が正当化され弱肉強食の世界が生み出されているのである。 貿易構造の変化 「産業の空洞化」(企業の海外進出によって国内産業が衰退する現象)も深刻化している。企業が製品の競争力を高めるために、中国などコストの低い海外に進出して逆輸入を積極的に展開しているからだ。例えば海外協力銀行の調査によると、2000年度の製造業の海外生産比率は前年度の21.1%から23%に上昇している。 さらに、企業の海外生産の拡大によって日本の貿易構造に変化が起こりはじめている。景気が良い時に輸入が増大し、景気が悪い時に輸入が減少するというのが従来の貿易の特徴だった。 しかし、最近では景気が悪いのに以前と比べて輸入(逆輸入)が増大する傾向が増しており、その結果貿易黒字が減少している。 急速に進行している円安の背景にはこうした貿易構造の変化があると思われる。 今後、景気を回復軌道にのせるためには、まず財政を拡大し公共投資を活発化させ、景気悪化に歯止めを掛けることが先決である。 この過程で企業や銀行の体力を回復させることができるし、とくに銀行は4月から解禁されるペイオフ(金融機関が破たんした場合、1預金者当たり元本1000万円までとその利息が保護される制度)に備えることができる。患者に対していきなり劇薬を投じるのではなく、病状に応じて適切な治療を施すことが肝要だ。 自分流の経営戦略 ペイオフに関して付言するならば、ペイオフ解禁とペイオフ発動は異なるといえる。実際、小泉政権はペイオフを予定通り解禁すると表明したが、解禁後も実質的に預金を保護する可能性についても述べている。現在の銀行の体力を考えると、ペイオフを実際に発動するのは容易ではないということだろう。諸外国でもペイオフの発動は例外的であり、決して「グローバルスタンダード」ではない。 周知のように、銀行は企業を支援し育てることによって経済全般を社会的に循環させる血液の役割を担っている。 現在、「間接金融(銀行融資)は限界に達したので直接金融(企業が株式や社債などを発行して資金を調達すること)の役割が重要だ」という論調が主流となっている。しかし、こうした視点よりも、間接金融と直接金融の「融合」という視点を持つことが大切である。間接金融の役割が決して終わったわけではないからだ。 とくに市場が成熟化、細分化しているなかで、地域密着型の銀行経営がますます重要になると思われる。 したがって現政権は、銀行(とくに中小金融機関)の負担を軽減しながら資本注入を行うなど、銀行を救済する環境整備にもっと力を注ぐべきだ。こうした政策を大胆に実行することができないならば、銀行発の「金融恐慌」が現実味を帯びるだろう。 日本経済は現在、「ドッグ・イヤー」といわれるほど変化のスピードが予想以上に速い時代に突入している。同胞企業経営者は、一部の評論家やジャーナリストが伝える観念的な幻想や、意味の不明確なマジック・ワードに惑わされることなく、「自分流にこだわる」経営戦略を練ることが重要だといえる。(ピョン・ヨンソン、朝鮮大学校講師) |