東アジアの新地平2002 変革に向けて(3)

7色の虹のように認め合う社会を

在日朝鮮人3世の動物児童文学作家 金晃さん


 沖縄に伝わる民話をもとに、人間と自然とのふれあいを描いた絵本「ジュゴンのなみだ」が、昨年、素人社から出版された。著者は京都市在住の金晃さん(41)。在日3世の動物児童文学作家である。

文学でアプローチ

 新作の執筆に励む傍ら、講演活動などにも出かける金さんは、朝鮮大学校理学部生物科を卒業後、朝鮮学校で8年間教鞭をとった経歴の持ち主。理学部への進学は、さまざまな薬品を使う家業のクリーニング店を継がせたかった父の勧めだった。

 小学生の頃から文章を書くのが好きで、大学在学中には自主文集をまとめたこともある。

 当時は在日朝鮮人文学をテーマに、それを独立したものとして認めるか、日本文学の一部と見なすのか、またその表現方法は朝鮮語か日本語か――といった、熱い論議がなされていた頃。日本語で書くこと自体が一部の人たちから「タブー視」されていた時代でもあった。そんな中、「在日の大衆文学」を手がけてみたいという思いから、金さんは色々な人を訪ね歩き、「日本語で文筆活動をはじめる」ことを選択。理由は、日本人の中に在日朝鮮人について知らない人があまりにも多すぎたから。日本の現状から文学を通じて「在日」の存在を知らせていく意義を感じたのである。

 しかし、俗にいう在日の「苦労話」的なものに対して、金さんは抵抗感を抱いていた。「多くの日本人は、日本が過去、朝鮮やアジアにしてきたことを申し訳ないと思ってる。そこに声高に拳を振り上げるだけなら話にならん。『この人たちとは関わらんとこ』と思われるのんが落ちや」。日本人と朝鮮問題について話しあう際、彼らと同じ言葉で共通の話題を見つけることが先決だと思った。そして考え抜いた末に、2つの結論にたどり着いた。ひとつは子供、もうひとつは生き物だった。

共生への思い

 未来に向けて子供と生き物の共生を描く、そこに在日朝鮮人と日本人との共生を重ね合わせれば…と考えたのである。彼の作品には、他者との共生に向けたメッセージが込められている。

 「ジュゴンのなみだ」には、金儲けのために沖縄の海にわなを仕掛ける漁師と、生活圏を侵されてわなにかかるジュゴン、そのジュゴンを助ける心やさしいヤンじいさんと、島に襲いかかる津波の到来を、言葉が通じないため涙で知らせるジュゴンの姿が描かれている。

 「在日朝鮮人のことを、今すぐにはわからなくても、この本で感じたことを大切にしてくれたら良いと思う」と金さんはいう。前作『ニジクジラは海の虹』では、朝鮮人の母と日本人の父との間に生まれた少女が、二つのルーツを前向きに受け入れていく姿を描いた。「みんなちがってみんないい。人間、一人ひとりが違って当然」。彼の言葉には、7色の虹のように互いを認め合える社会を築こうとの強い願いが込められている。

ペンネーム

 本名は、沈剛万。「金晃」はペンネームである。

 朝鮮人であることをひた隠しにして日本の小学校に通っていたある日、ひとりの転校生がやってきた。名前は金晃。差別や偏見の中、朝鮮名を名乗る生徒が少なかった時代のこと。彼にとって本名で学校に通う金晃の存在は新鮮だった。ひとめで金晃を好きになった剛万少年は、悩んだ末、自分が朝鮮人であることを打ち明ける。2人は無二の親友に。しかし、より親密になりたい思いから朝鮮学校への進学を希望したその日から、「民族分断の壁」がふたりの少年の友情を引き裂いた。金晃は韓国学園の校長の息子だったのである。心に突き刺さった痛みは、今もうずきつづける。

 「このペンネームで、世界に羽ばたく作家になりたい。僕の童話がハングルでも出版されて、彼に再会するのが夢」と金さんはいう。「ジュゴンのなみだ」は英訳付きで、カナダでも出版され、大きな反響を呼んだ。(金潤順記者)

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