取材ノート

問われる当事者の運動


 「双方は、在日朝鮮人の地位問題について国交正常化交渉で誠実に協議することにした」とは、9月17日に発表された朝・日平壌宣言の一文だ。日韓条約締結の際に在日朝鮮人の権利問題が何ら解決されなかったことから、朝・日交渉時にこそ、との声はたびたび聞かれてきた。

 民族教育の制度的保障、強制労働、性奴隷被害者に対する謝罪と補償、無年金を強いられている高齢者・障害者…。同胞を取り巻くさまざまな権利課題は民族団体のみならず、多くの同胞や日本市民が地道に取り組んできたことだが、先日東京で開かれた集会でも無年金障害者の苦しい生活が浮き彫りになっていた。

 葛飾区在住の金政玉さんは足が不自由で、車椅子の生活を送る。同区が無年金の外国人障害者に支給する月額3万円の福祉金は、移動手段の車代の返済に消えて行く。

 京都在住の金洙榮さんは聴覚障害者。同じ障害を持つ妻、そして高齢のオモニも無年金。3人の子どもがいるが、その生活を維持していくのは本当に大変だ。金さんは「黙っていられない」と京都地裁に訴えを起こした。その法廷闘争を支援している鄭明愛さんは、「外国人、なかでも社会的弱者がどのような立場に置かれているかに日本のあり様が見える」と話す。

 1981年までは、出入国管理令に身体・精神障害を持つ外国人は退去強制の対象になりうる、と定められていた。この非人道的な法律ゆえに、障害者手帳すら持てなかった同胞が多かったそうだ。鄭さんは、このような経緯からも日本政府は日本人と同レベルの年金を支給するだけではなく、長年苦しみを強いたことを謝罪すべきだと主張する。

 これはほんの一例だが、宣言にある、「誠実に協議する」という条項を「あるべき姿」にどう近づけるか。

 日本政府に対する、内外の世論を盛り上げる当事者の運動が今ほど問われている時はない。(張慧純記者)

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