センターよもやま話―生活の現場でA

唯一の楽しみ、会える「場」を

1世の介護/山口・下関、広島・西の場合


温泉で合流

 「ヤー、ワッソ(来たか)」

 下関市の大和町にある日乃出温泉。下関同胞生活相談綜合センターの介護サービスを利用する市内のハルモニたちは毎週2回、ここで会う。同胞のさまざまな権利を勝ち取るため、夜行列車で東京へ行ったり、学校を支えるため、キムチを作ったり。彼女たちにとって、力を合わせて下関の同胞社会を築いてきた「同志」に会うことほど楽しいことはない。

 利用者は100世帯の同胞が住むトンネ・大坪の人が多い。多くの同胞が身を寄せた大坪も、街の過疎化とともに高齢化し、一人暮らしの1世が増えている。いくつかの病気を抱え、体が思うように動かない彼らは、唯一の楽しみだった隣人と「会う」ことすらままならなくなってしまった。

 この悲願を実現したのが、下関センターだ。同センターは、介護事業において県内で経営成績がトップの豊関介護サービス株式会社の協力を得て、昨秋から同胞高齢者の訪問介護サービスを進めている。センター職員の韓朝男さん(49)が同社に籍を置き、同胞介護を担当。また、同社のヘルパー養成を通じて育った10人の同胞ヘルパーが大坪を中心に介護サービスの申請を代行した結果、現在約40人の同胞高齢者がサービスを利用するまでになった。

 大坪で一人暮らしの崔順愛さん(76)もその1人。5人の息子を育てるため働き続けた崔さんは、若い頃夜は船や浜の仕事をし、ほとんど寝る暇がなかったという。その時から患っていた足の治療のため、以前はタクシーで病院に通っていたが、介護保険の適用を受けてからは、同胞ヘルパーの田英淑さん(40)が送迎してくれるようになり、「本当に楽になった」。

 週2回の「温泉の集い」は、同胞ヘルパーらで相談し、利用者が集えるよう、時間を調整している。

 1世が心置きなく過ごせるデイサービス施設を建てることが今後の課題だ。

民間業者とともに

 広島西同胞生活相談綜合センター(広島市西区)の1階にあるデイサービスセンター「さむけあ・ありらん」。訪れた日は、誕生日会でにぎわっていた。

 広島朝高卒の朴理香さん(19)が、誕生日を迎えた女性3人の爪をきれいにマニキュアをしたり、お化粧する。続いて晴れやかなチマ・チョゴリに身を包んだ主人公が登場するや、「見違えるねー」と歓声が沸き起こった。

 ピンクのチョゴリをまとった呉次仙さん(72)が、新婦を真似て膝をついてお辞儀をする。

 「セセックシ(新婦)! もう一度あいさつしなさい」。「観客」と化した利用者のアンコールに何度も応える呉さんに、爆笑の渦。笑いすぎて涙ぐむ人も出てきた。ここの1世は本当に元気だ。

 時がたつのを忘れ、ふざけ続ける利用者たちを、金時好さん(41)ら同胞ヘルパー、PP看護師たちが温かく見守る。オリジナルの歌とケーキをプレゼントし、健康と長寿を願った。

 今年4月にオープンした「さむけあ・ありらん」。西センターと訪問介護を行う同胞業者「さむけあ・ととり」(李銀淑所長)がともに設立した通所介護施設だ。

 西センターの管轄は中・西・佐伯区や廿日市市、大竹市など。中区の基町、市民球場裏の高層アパートには一人暮らしの高齢者が多い。

 同胞高齢者向けに通信制高校の授業を行う「青丘学習会」やグラウンドゴルフのサークルなど1世のネットワーク作りに取り組んでいた西センターだけに、1世の介護問題は懸案だった。

 一方、「さむけあ」は、1世が日常的に集う西センターの活動に注目していた。相談した結果、センターの1階を通所介護施設に改装し、介護サービスは「さむけあ」、利用者の送迎はセンターの職員が担当することを決めた。

 デイサービスは好評。利用者はもちろん、高齢者を抱える家族も「元気になった」と喜んでいる。(張慧純記者)

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