朝鮮学校児童・生徒への暴言・暴力
「人として恥ずべきこと」
声あげる日本市民
「パチンコ疑惑」(1988年)、「核開発疑惑」(94年)、「ミサイル騒動」(98年)…。朝・日関係が悪化するたびに繰り返されてきた在日同胞の子どもたちに対する暴言・暴行。朝・日首脳会談後は日本人拉致事件の矛先が子どもたちに向けられている。繰り返される迫害に「許せない」と声をあげる行政や日本市民らの行動が、不安にかられる同胞保護者や子どもたちへの励み、救いになっている。
各地で306件 朝鮮学校に対する暴言・暴行・いやがらせは宣言が発表された9月17日から急増。11日現在、306件の事象が報告されている(暴行2、暴行未遂10、暴言18、脅迫電話107、無言電話61、Eメール108、総聯中央教育局調べ)。 首脳会談当日の9月17日。神奈川朝鮮初中高級学校(横浜市)では夕方から脅迫電話が鳴り続けた。夜中まで24件。また、愛知・一ノ宮駅では、50代の中年男性が下校中の愛知朝鮮中高級学校(豊明市)の中3女生徒3人のチョゴリを引っ張り、「ついて来い」と言いながら連れ去ろうとした。 各学校は、私服や体操服で集団登下校させるなどの措置を取る一方、警察や行政に再発防止の要請を続けている。 京都では、脅迫電話などの嫌がらせが90件以上起きている。「生徒を殺す」「日本から出て行け」などの脅迫電話や、「もう一度侵略されないと分からないのか」「死ね」と書かれたはがきも送られてきた。 事件を深刻に受け止めた府は、8日の府議会厚生労働委員会で迫害の実態を公表。「拉致事件への憤りと在日朝鮮人の人権問題は別で、冷静に考えないといけない。(嫌がらせは)相当悪質化しており、遺憾である」などと答弁。今後法務局などと合同で啓発チラシを配布することを決めた。すでに、府教委は各市町村教委と府立学校長に対して在籍する外国籍の児童・生徒の安全を確保するよう、要請していた(7日)。 井戸敏三・兵庫県知事も2日、県教育長、県私学総連合会会長、県外国人学校協議会会長、県国際交流協会理事長らと連名で緊急アピールを発表。「脅迫や嫌がらせは、人道上あってはならない、人として恥ずべき事件。このような時こそ県民の良識ある行動を切に願う」と訴えた。他にも数多くの市民団体がアピール文を発表し続けている。 「ありがとう」
埼玉県では朝鮮学校児童・生徒への嫌がらせを防ごうと、心理カウンセラーの斎藤紀代美さん(58)が子どもたちを守るメッセージを込めたリボンを作った。有志たちとともに、埼玉朝鮮初中級学校(大宮市)の通学路に立ち、「リボンをつけて」と呼びかけている。リボンは口コミで780個配布された。 埼玉県では、埼玉初中の女子児童が40代男性から「悪いことをしてやろうか」と脅されたほか、女子生徒が20代の男性10人以上に取り囲まれる事件が起きた。9月25日には、同校と埼玉朝鮮幼稚園(川口市)あてに脅迫状が送られてきた。「制服を私服に代えても、当方は見逃さぬ。切り刻んで悪の首領に送りつけてやる。必ず決行する」。 斎藤さんは、11日にもJR大宮駅前で友人たちと道行く人に「リボンをつけて」と訴えた。「側を通った朝鮮学校の生徒が『ありがとう』とお礼してくれた。とにかく生徒たちを励ましたい」。 明らかな犯罪行為 「朝鮮学校や子どもたちに対する脅迫電話や路上での暴行は、刑法に定める暴行罪、脅迫罪、威力業務妨害罪、名誉毀損罪、侮辱罪に該当する明らかな犯罪行為」。98年の事件の際、朝・日の有志らと「朝鮮人学生に対する人権侵害調査委員会」を結成し、再発防止策を訴えてきた在日本朝鮮人人権協会の洪正秀弁護士は怒りを禁じえない。「中年男性が幼い女生徒に罵声を浴びせたり、暴力を振るうケースが目立つが、力のない子どもたちをはけ口にしている。許せない行為だ」。 洪弁護士は、子どもたちを守るためには、被害を受けた学校が警察に被害届けを出すよう促す。と同時に、事件の背景には日本政府が国連の人権条約を順守していないことや、日本の公教育における歴史教育の欠如があると指摘しながら、日本社会がこれを克服しない限り、またもや迫害が繰り返されると警鐘を鳴らした。(張慧純記者) 各地での被害(11日現在) ◇9月17日 ◇18日 ◇19日 ◇21日 ◇22日 ◇26日 ◇10月4日 ◇10日 ※在日本朝鮮人人権協会作成。総聯中央教育局が各学校の被害状況を調査したものをもとにまとめたものの一部。 |