朝・日国交正常化交渉に期待する
不幸な百余年の清算を
白宗元
間もなく朝・日国交正常化のための交渉が始まる。歴史の節目々々を体験しながら故郷をはなれ、60年もの人生を日本で送った1人の年老いた朝鮮人として、私は深い感慨をもって「平壌宣言」を朝・日関係における画期的な、歴史的な出来事として心から歓迎し、交渉がりっぱな成果をおさめるよう願っている。
明治維新は、日本が近代国家としてふみだす出発点であったが、明治政府の対外政策は「征韓論」から始まった。清日、露日戦争で清露両勢力を駆逐した日本は、1910年、朝鮮を「併合」、以後長く暗い日本の植民地支配がつづいた。戦後も冷戦構造のなかで朝鮮民主主義人民共和国と日本との関係は正常化しなかったばかりか、60年になんなんとする今日までむしろ敵対的な状態がつづいてきた。この状態をこれ以上続けてはならないと、「平壌宣言」は2つの世紀にまたがるこのような不和と対立の関係を清算し、お隣の国として21世紀を信頼と友好、親善と交流を構築する時代に代えていく重要な契機であり、この意味で歴史的であり、歓迎すべきなのである。 百数十年の間、積もりつもった不幸な関係を清算するうえでは、さまざまな複雑な問題を解決しなければならないだろう。 拉致事件は、在日朝鮮人にも大きな衝撃であった。非正常な両国関係のなかで起こったとはいえ、このような事件はあってはならないことである。 身内を突然拉致され、あるいは亡くされた父母兄弟の心情を考えれば、同じく子をもつ親として私たちも痛恨の思いを禁じえない。 だからこそ、このような悲痛な事態を再びくりかえさないためにも、両国の正常な関係が1日も早く実現することが望ましいのである。 同時に私は1人の朝鮮人としてあらためて訴えたい。朝鮮人が今なお、長い苦痛の歴史、深いきずあとをひきずりながら生きていることを。 戦時中、20万の未婚、既婚の朝鮮女性は太平洋、中国の各戦線に強制連行され、そのほとんどが悲惨な最期をとげた。沖縄戦、広島と長崎の原爆投下でも数万の強制徴用された朝鮮人が名も知れず、何の補償もなく死んでいった。多くの朝鮮人たちにも愛する人びとがあり、空しく帰りを待ちわびた家族たちがいたことを日本の人たちも忘れないでほしい。 近い国でありながら不幸な関係をつづけてきた両国間の歴史を清算するため平壌におもむいた小泉首相の決断は日本国民から68%の支持をうけた。 近隣の中国、ロシアはもちろん、欧州の国々も支持を表明した。世界の人々が「平壌宣言」の実現を願っているからに外ならないと思う。 この度のアジア大会は南北朝鮮で統一気運がますます高まっていることを示した。その最も明確なあかしは、南北鉄道の連結である。遠くシベリア、ヨーロッパに連なり、中国、モンゴルとさらに緊密に結ばれ、この鉄道は朝鮮の統一、アジア、ヨーロッパとの経済、文化の交流、アジアの安定と繁栄をうながす大きな力となるだろう。 金正日総書記は、目を大局にむけ、朝・日関係の歴史的解決を計るべきだと言われた。 今は冷静に、かつ全般的に歴史の大勢を見定め、両国民の共通の利益を考える時である。 両国民が恩讐をのりこえて理解しあい、百年の計のため、この絶好の機会を見事に生かし国交正常化の大業を実現させるのは今だと私は考える。(朝・日近代史研究家) |