朝・日会談を台無しにする日本のメディア

ジョン・オーウェンス


 米ワシントン州シアトル生まれ、22歳。2002年、ホイットマンカレッジ卒、アジア学を専攻、副専攻は日本語。2000〜2001年度、同志社大学で学ぶ。
 57年に及ぶ月日と不成功に終わったさまざまな試みの後、最近の数週間、世界は北朝鮮と日本の外交関係の正常化と和解への新たな希望を目の当たりにした。しかし小泉首相の朝・日2国間の関係正常化と東アジアの安定のための新しいステップは、日本のメディアと政治的右派勢力の意図によって危険にさらされるかもしれない。拉致問題にのみ焦点を合わせながら、大衆の敵意を駆り立てることを狙った日本のメディアの扇情主義的な政治的報道は、この歴史的な会談を台無しにしている。

 この問題に関する事実は、1977年から1983年の間に13件の拉致が行われたということである。もっと驚くべきことは、金正日総書記が日本側の拉致問題に関する事実を認めてそれにたいして謝罪するという、前例のない行動を取ったということかもしれない。これは明白で肯定的な変化が北朝鮮の中で起こっているということを知らせるものだ。

 全ての人の命は等しく大切であるが、被害者の家族が受けた苦しみは全体的な視野で正しく把握されなければならない。拉致について言うならば、明らかになった事柄より明らかにされるべき疑問点がより多く残っている。さらに拉致は、冷戦が頂点に達し、南北の関係がこじれ緊張していた時代に起きたということを忘れてはならない。歴史的背景と視点を欠いたまま、いまだに日本のメディアの関心は拉致問題と被害者家族の苦悩と悲痛に集中し続けている。

 そのうえ、メディアの扇情主義は、国交正常化のプロセスを危険に陥れるだけでなく、在日朝鮮人へ向けられた暴力と差別の悪化に対してある程度責任がある。皮肉にも、彼、彼女らは第2次大戦中、労働力として日本へ強制的に連れてこられた(拉致された)人々の子孫である。今まで何の補償も受け取っていないが。

 拉致問題に関してたくさんの報道がなされている一方、第2次大戦中に朝鮮半島で行われた数十万人に及ぶ労働者や従軍慰安婦≠フ拉致≠ノおける日本の過去に関するいかなる言及もメディアにはなかった。この見地からいうと、日本のメディアと大衆は20年前に起こった13人の人々の拉致に対して感情的に反応する権利はない。

 別の観点から言うならば、拉致問題は日本のメディアと政府に、日本の過去に対する責任を回避する別の新たな方法を提供した。過去10年間、それが対立する歴史的な問題か道義的な補償責任かどちらかであろうと、拉致問題は朝鮮との国交正常化を避ける口実に使われただけではなく、朝鮮半島に対する日本が過去に犯した残虐行為の清算を忌避する口実をもたらした。

 さらに、完全なる論理の歪曲なのだが、政治的右派勢力と拉致被害者親族の一部は、日本政府は拉致に対して北朝鮮へ補償を求めるべきだと主張している。それでは第2次大戦中、朝鮮人民に対して行われた日本による大虐殺への補償はどうなのだろう? またある人々は依然として20年前の拉致を国家テロ≠ニ呼び、日本政府に対し北朝鮮に対する食糧援助を延期するとともに、国交正常化交渉を中断することを要求している。日本のマスメディアと右派勢力の中にいる彼らが、和解という意味を理解するのはいつなのだろう。

 そしてより困った問題は、メディアが、東アジアの安定と平和や北朝鮮に対する日本の歴史的、道義的責任というような、北朝鮮と日本の間のより大きな問題を実質上報道してこなかったということかもしれない。最も失望することは、マスメディアとは、大多数の日本人が北朝鮮に関する情報を得ている場所だということであり、そしてメディアは依然として朝鮮問題に関しては偏見に満ち、一方的で偏狭な報道を続けているということである。結果として、メディアの扇情主義は世論の反北朝鮮感情を呼び、それは朝・日間の和解と国交正常化を危うくしている。(原文は英語)

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