「南北オリニオッケドンム」ソウル絵画展に参加して

「早く統一して、仲良く遊びたい」

東京朝鮮第5初級学校 金聖蘭


 10月10日、東京朝鮮第5初級学校の3人の子どもと先生たちが、ソウルへ旅立った。「南北オリニオッケドンム」の絵画展に招かれたためである。南の子どもたちとの心温まる交流に同行した美術教師・金聖蘭さんがリポートしてくれた。

 2時間25分。

ソウル・サンボン初等学校で

 東京成田空港からソウル仁川空港までの短い空の旅である。

 機内の画面に映しだされた飛行図は釜山上空を示し、窓からも南の陸地がはっきり確認できた。

 朝鮮学校の教師である私にとってあまりにも遠い、もう1つの祖国、南の地であった。

 初めての祖国訪問は大学時代だった。

 夜の清津港の埠頭の灯。車窓から眺めた山なみや農村風景、秋深まる平壌。

 映像や写真でしか知ることのなかった祖国を自分の目で見、心に刻んだ日々。

 その思い出と対になりながら南への思いが募ったあの頃。

質問攻めにあう在日の子たち

 多くの在日がそうであるように、私の故郷は南にある。

 分断された祖国の間で南北を自由に往来できないのは在日も然りである。

 あれから20年、もう一つの祖国訪問は突然実現した。

 それは去年、日本のNGO「南北コリアと日本のともだち展」への出品がきっかけで南のNGO「南北オリニオッケドンム」の絵画展にも朝鮮学校の子どもたちの絵が南北の子どもたちの絵と共に展示された事から始まる。

 この2つのNGOは南北コリアの統一と北東アジアの平和を願い、そのためにまず子どもどうしがお互いをもっと知ること、関心を持つこと。それによって体制や文化の違いを乗り越え、平和な未来を創り出そうとしている。

 ここ数年、北の子どもたちと出会い、自画像を描いてもらい、絵による南北コリアと日本の子どもたちとの交流を図っている。

 去年、その交流に朝鮮学校と韓国学校の子どもたちの絵が加わったのである。

 今年の春、「南北コリアと日本のともだち展」事務局長の筒井由紀子氏から、6月に平壌で展示をし、9月に東京での絵画展とワークショップが開かれること、その後「オッケドンム」の絵画展で展示されると聞いて、思わず「絵だけでなく、実際に行ってみたい!」と出た言葉が実現したのである。

 6月の平壌、ルンラ人民学校での展示には東京朝鮮第8初級学校の13人の子どもたちが観覧し、子どもどうしが遊びを通じて交流を深めた。

 9月の渋谷での絵画展とワークショップには「オッケドンム」の9人の子どもたちがやって来て、朝鮮学校の子どもたちが通訳をしながら彼らと日本の子どもたちとの交流の輪をつなげた。

 10月10日、東京成田空港発 14時55分。

 仁川空港着 17時20分。

 「南北コリアと日本のともだち展」代表三木睦子氏と実行委員の方々と朝鮮学校の教師2人、母親1人、そして元箕、民秀、汎一の3人の生徒が仁川に降り立った。

 「オッケドンム」の平和体験文化祭のワークショップ、絵画展に参加するためにである。

 歓迎晩餐会では和やかな雰囲気の中、三木睦子氏、「オッケドンム」クォン・グンスル理事長、チョ・ヒョン共同代表の貴重な話が行き交った。

 漢陽大学の鄭炳浩教授は流暢な日本語で、今回の訪問を「85歳のハルモニが3人の朝鮮の孫を連れてソウルに来られた絵本のような話」と例え、それぞれの心に残る言葉となった。

 朝鮮学校の子どもたち3人を囲み、誰もが彼らのソウル訪問を喜び、心満たされた一時だった。

 2日目はソウル・サンボン初等学校を訪ねた。

 5年2組、ソン・スヒ先生(27)と35人の子どもクラスでの交流は、歌とノルブ伝のお芝居から始まった。

 朝鮮学校側からは日本で生まれ育った朝鮮の子どもが、朝鮮学校に通い言葉と歴史、文化を学んでいる事を話し、最近朝鮮学校でよく歌われている「バスに乗って電車に乗って」を3人の子どもたちが歌った。

 質問攻めに合いながら一生懸命に答える3人は徐々に緊張がほぐれ、笑顔が見えだした。

 やはり、同じ言葉を持つ子どもたちだという感慨が大人たちの顔に伺えた。交流の最後に朝鮮学校について熱心に質問していた女の子キム・ユニが別れのあいさつをしてくれた。

 「今日、初めて朝鮮学校の事を知りました。日本に帰っても朝鮮の言葉や歴史、文化などをしっかり学んで下さい。みんなに会えて本当に良かったです。またいつか会いたいです」。その言葉にそれまで何とかこらえていた涙が止まらなかった。

 朝鮮学校の子どもたちがソウルの学校の子どもたちと出会い、そして心を通わせた2時間だった。

 午後、「オッケドンム」の事務所で日本に来たメンバーと再会。

 市内に出て仁寺洞、歴史博物館、美術館、本屋などをめぐった。3人の男の子はソウルっ娘パワーに圧倒されながらも楽しい半日を共にし、すっかり打ち溶けていた。

 3日目、「オッケドンム」の子どもたちと合流し、ソウル市立江北青少年修練館での平和体験文化祭に向かった。

 会場には100人近い子どもたちが集まり、にぎやかにワークショップが催された。

 北漢山の見える屋上でのオリエンテーションは遊びの中に南北の統一、北の子どもたちへの思いを共に考え感ずるようにプログラムされていて、「オッケドンム」の平和教育の一端を見るようであった。

 「北の子どもたちにどんなプレゼントをしますか?」

 グループに与えられたこのクイズの問いに子どもたちが相談し合い互いの手を取り合ってハートのポーズをしながら「愛する心」と声を合わせ答えた姿が印象深い。

 午後のロック・クライミングは漢拏山から始まり、南北の山々を登り、白頭山の頂で北の子どもたちに自分の思いを叫んで降りて来るというものだった。

 高くそびえたつ人工壁には南北の山名が記されたプレートが掲げられていた。

 一番手に名乗りを上げた汎一は注目の的になりながら、てっぺんまで登りしがみついていた。

 「北の友達に一言!」の催促に汎一が叫んだ。「助けてー!」周囲は爆笑だった。

 閉会式。

 三木睦子氏、チョ・ヒョン氏の未来を担う子どもたちへのメッセージは、南北の統一は子どもたちによって必ず成されるというものだった。子どもたちはそれぞれの思いを話し合い、それらを書き記した。

 「この日を決して忘れません」

 「早く統一して、みんなで仲よく遊びたい」

 「北の子どもたちと会って友達になりたい」

 統一を願う子どもたちと大人たちの熱い思いが1つになり、未来への夢が拡がる瞬間だった。

 絵画展に展示された北の子どものメッセージ。

 「アンニョン! チングヤ 会いたいな」

 まだ見ぬ北の子どもに思いを馳せながら、素晴らしい体験の1日が過ぎた。

 最後の日は徒歩で昌徳宮に向かった。

 「オッケドンム」の子どもたちは覚えたばかりの歌「バスに乗って電車に乗って」をソウルの通りに響かせていた。

 まるで日本から来た朝鮮学校の子どもたちをソウルの街に知らせるかのように。

 その姿は天真爛漫で頼もしいソウルの親友、チングの姿であった。

 そして空港へ。

 「オッケドンム」の事務局の方々や子どもたちともここでお別れ。

 「アンニョン! チングヤ」「また会おうね」。黄昏の仁川空港で、今一度心が重なり合い再会を約束し合った。

 成田空港着。

 同行した「南北コリアと日本のともだち展」の寺西澄子氏のカメラの前に立ち「楽しかったー!」とオッケドンムしながら笑う3人の姿は、今回のソウル訪問にかかわった人々の心に印象深く残るものになった。

 日本に生まれ育ち、民族教育をうける朝鮮学校の子どもたちが学んでいるのは、民族の誇りと祖国への思いではないだろうか。

 南と日本の子どもたちが集まったワークショップで朝鮮学校の子どもが通訳をし、交流の輪を拡げたように南北の子どもたちの出会いもまた、在日の朝鮮学校の子どもの手でより強く大きな輪に拡がってほしい。

 私たちの民族教育が南北の心をつなげる役割を果たす「言葉と文化と情緒」を育む場であることを願わずにいられない。

 そのためにも民族と祖国をより身近に体験できる機会が必要だろう。

 平壌での交流を大切な思い出にしている東京第8の13人の子どもたち。

 ソウルを訪問した3人は「もう一度行きたい。会いたい」と言っている。

 民族や祖国への思いはそんな素直なつぶやきから育まれるのではないだろうか。

 ソウル、そして平壌も秋深まっているだろう。

 いつの日か子どもたちと京義線に乗って行ってみたい。

 短い鉄道の旅になるだろう。

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