歴史の事実後世に
「浮島丸事件」真相調査続ける元教師の斎藤さん、東京朝高で講演会
「浮島丸事件」(注)の語り部として、出港地である青森・下北で10年来真相調査を続けている元高校教師の斎藤作治さん(72、下北の地域文化研究所代表)が2日、東京朝鮮中高級学校(東京・北区)で講演した。
講演は「浮島丸運動の10年を振り返って」と題し行われた。青森県下の高校で37年間教べんを取った経験を持つ斎藤氏は、10年前「事件」について初めて知り、有志とともに当時の聞き取り調査を開始した。下北で行われていた強制連行、強制労働下の朝鮮人の生活も調べてきた。 「爆沈は旧日本軍による計画的犯行との説が有力だが、57年たった現在もその真相はおろか正確な犠牲者数も明らかにされていない。また、歴史の事実さえ教えられず、事件があったことすら知らない日本人がほとんどだ。日本が本当の意味での平和な国になるためには過去に犯した罪を『ほっかむり』せず、きちんと向き合い後世に伝えていくことが大切だ」と語った。 ◇ ◇
高級部1年生200余人を対象にした同講演は、高級部3年間を通して段階的に学ぶ進路講習の一環として毎年行われているもので、各地の朝高でも独自に行われている。同校では歴史、同胞社会、祖国などに関して各分野の専門家を招いてきたが、日本人講師は初めて。 「食べるものもないなかで殴られながら重労働をさせられ、やっと帰国の途につけると喜んだ朝鮮人の命を奪ったことにとても心が痛んだ」(白光成)、「2度とこのような痛ましい事件が起きないように私たちがこの事件をしっかり心に刻み、朝・日親善のかけ橋となっていきたい」(金明玉)、「同じ朝鮮人なのにこの事件についてよく知らなかったことを恥ずかしく思った。この講演をきっかけに、これから自分が何をしていけるかを考えたい」(尹成浩)、「浮島丸事件が一日も早く解決し、朝鮮人と日本人が仲良くなれる日がくることを願った」(盧光敏)、「朝鮮の歴史をもっとよく知り、語り継いでいかなければならいと実感した」(李慈恵)。講演を聞いた生徒たちの感想文にはこのように書かれていた。 初めて訪れたという朝鮮学校の印象について斎藤氏は、「一生懸命聞こうとする生徒たちの姿勢が素晴らしかった。朝鮮学校の生徒に嫌がらせが相次いでいると聞いたが、同じ日本人として許せない。1日も早く互いの心が通い合う平和な関係を築いていきたい」と感想を述べた。 同校の金斗植教員(36)は、「日本が過去に犯した罪については一切語られることなく拉致問題だけが連日マスコミに取り上げられているなかで、生徒たちが今日の講演を通じ正しい歴史認識、自らのルーツを学んでくれれば」と語っていた。(花) 【注】浮島丸事件 日本の植民地時代、青森・大湊海軍施設部で強制労働を強いられていた朝鮮人徴用工を朝鮮に送還せよという旧日本海軍省の決定により、解放直後の1945年8月22日、3735人の同胞らを乗せ大湊港を出港した浮島丸が舞鶴港に寄港し、出港した直後の24日夕、舞鶴湾で突然大爆発を起こし沈没。同胞ら549人(日本政府発表)が犠牲になったとされる。 |