若きアーティストたち−9

チャンセナプ奏者 崔栄徳さん

南北朝鮮と日本を股に掛ける


 ロン毛に茶髪、ネックレス。長袖Tシャツに花柄プリントのシャツを重ね着して、一見「イマ風」。

 崔栄徳さん(28)は、金剛山歌劇団のチャンセナプ奏者。若手ソリストとして歌劇団の看板を飾っている。

 チャンセナプは民族楽器のセナプを現代風に改良したもので、音域が広く、音色はやわらか、民族楽器の花形とされている。今年の全国ツアーでは、朝鮮曲「渓谷」のほか、日本の癒し系音楽「風笛」を披露した。真っ白なスーツに身を包み、観衆を優雅に音楽の世界へ導いていく。

 「白い服を着たお兄さんがとても素敵だった」、「若いのに、日本で朝鮮の民族楽器を上手に奏でる姿に感動した」と、鳥取県倉吉市の女子高校生らは言っていた。

 崔さんの魅力は、伝統芸能の伝承者でありながら、決して「古臭くない」ところにあるように思う。改良された民族楽器同様、洗練された美しさが漂っているのだ。

 日本各地で巡回公演をしながら、歌劇団を支え団員たちをねぎらう同胞の温かさに触れてきた。そんな折、何よりもうれしいのは、「オモニたちの温かい手料理をいただくこと」だと言う。実家を離れての長旅だけあって、「オモニの味」への想いが募るのか。

 今年9月に開かれた平壌会談以降、各地の劇場では右翼集団のいやがらせなどに備え、数十人の警官が警備に当たるなど、緊迫した状況が続いていた。

 「物々しい雰囲気の中、無事公演を終えると、いつにも増して実行委員の方々や観客の方々に感謝の気持ちでいっぱいになった」と、崔さんは話す。

 2月には祖国を訪れ、咸鏡南道咸興市で、初めて金正日総書記を迎えての舞台に立った。総書記はその後、総聯代表団とともにした晩餐の席で崔さんを探し「才能豊かな人材」と高く評価したという。でも当人は、あいにく会場にはいなく、翌日、参加者にそれを伝え聞いたという。

 「まったくラッキーなのか、アンラッキーなのかわかりません」

 翌3月には、南朝鮮の国立国楽団の招待により南の地へ。歴史的な6.15共同宣言が発表された年の12月に行われた金剛山歌劇団初のソウル公演がきっかけになり、崔さんに出演のオファーがきたのだという。

 南の作曲家は彼のために「春」という15分にもおよぶ大曲をプレゼントした。南北に引き裂かれた肉親の離散の苦しみと統一への願いが込められた曲。

 「北の作品とは対照的でした。また、国立国楽団の奏者たち40〜50人が伴奏についた。彼らの楽器はすべて古典楽器、初めての経験だったので、それはもう感動でした。俺って、結構すごいじゃん!、て感じですかね(笑)」。

 日本生まれの日本育ち、奏でる楽器は民族楽器。北の芸術家に師事を受け、南の地で演奏する。

 今月30日から金剛山歌劇団は釜山、全州で公演するため、再び南の地を訪れる。「各地で僕らを応援してくれている同胞たちの期待に応えたい。南朝鮮での1回1回の公演を大切にしてきます!」と決意を固めた。(金潤順記者)

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