第4回人権協会研究交流集会

過去清算の一環、課題解決を

シンポ「日本の対在日朝鮮人政策のこれまでとこれから」


 在日本朝鮮人人権協会の第4回全国研究交流集会(9、10日、岐阜)でのシンポジウム「日本の対在日朝鮮人(外国人)政策のこれまでとこれから―朝・日国交正常化と外国人10%社会を見据えて―」で発表された任京河・朝鮮大学校講師(人権協会常任理事)の基調報告、ジャーナリストの姜誠さん、京都光華女子大学助教授の金明秀さん、朝大助手の金一雄さんの報告要旨を紹介する。

基調報告

任京河・朝大講師

 朝鮮民主主義人民共和国の金正日国防委員長と日本国小泉純一郎首相は9月17日、「朝日平壌宣言」に署名し、「朝日間の不幸な過去を清算し」(前文)、「在日朝鮮人の地位に関する問題」を「国交正常化交渉において誠実に協議する」(第2項)ことに合意した。日本政府は、同宣言の精神に則って在日朝鮮人の地位に関する政策や措置を取ることを世界に宣言したのである。在日朝鮮人の地位については、多くの懸案事項が存在するが、日本への帰化の流れによって差し迫った「民族の危機」を乗り越えるための施策をどれだけ実現できるかがこの「地位協議」の歴史的課題である。日本政府の在日朝鮮人政策を振り返りながら、朝・日国交正常化後のあるべき政策について考えたい(この報告において、在日朝鮮人とは、日帝の植民地支配によって1945年8月15日以前から日本に住むことになった朝鮮半島出身者およびその子孫を指す)。

過去の政策―同化、分断、排除で一貫

 1910年8月22日、日本は朝鮮に「韓国併合条約」を強要し朝鮮を植民地とした。朝鮮人民はその意思に関わりなく一方的、強制的に日本臣民にさせられ、徹底した同化政策が取られたのである。

 45年の日帝のポツダム宣言受諾により、朝鮮人は「日本臣民」から解放され、朝鮮国籍を回復するはずであった。しかし、日本に残留した約50万人の在日朝鮮人が少数民族化することを恐れた日本政府は、朝鮮人の朝鮮国籍回復を認めず二重国籍的な法的地位に置いた。サンフランシスコ講和条約が締結されるまでの間、日本政府は朝鮮人に対し、日本国籍を従前どおり保持させる方針を取る一方、治安維持を目的とする外国人登録令の運用においては外国人とみなし、同令に違反すると排除=強制送還する政策をとったのである。

 在日朝鮮人を日本国民とみなす方針は、従前の内国民待遇を与えるためのものではなく、民族性を抑圧し同化を強要するための口実であった。この同化政策は、65年の「韓日法的地位協定」発効に伴い、同年12月に出された、朝鮮人学校を各種学校として認可すべきでないなどとする2つの文部省通達によっていっそう強化された。

 52年のサンフランシスコ講和条約発効に伴い、日本政府は在日朝鮮人の日本国籍を喪失させる法務府民事局長通達を発し、これによって外国人としての法的地位が確定した。

 在日朝鮮人は、48年12月20日に公布された「韓国国籍法」と63年10月9日に公布された共和国国籍法によって、南北両政府から公(国)民としての法的地位が認められていたものの、日本政府は国籍喪失措置を根拠に、在留権や参政権(事実上45年12月から停止)などの基本的人権、戦傷者・戦没者遺族への個人補償、国民年金など社会保障制度から在日朝鮮人を排除する差別政策を取ったのである。

 日「韓」両政府は、65年に「韓日条約」、「韓日法的地位協定」を締結したが、在日朝鮮人に認められた法的地位は一部への永住資格でしかなかった。在日朝鮮人は「協定永住」取得を条件として、外国人登録上の国籍表示を「韓国」へ書き換えることを迫られ、国籍表示によってその法的地位を分断された。81年、日本の国連・難民条約加入に伴い、ようやく「朝鮮」籍者の「特例永住」と在日朝鮮人全体への国民年金、児童手当など社会保障制度の適用が認められた。「韓日条約」では難民条約以下の法的地位しか認められなかったことを振り返ると、前者は本質的に在日朝鮮人に対する「棄民政策」の合意であったと言うよりほかはない。

 国際人権規約の批准(1979年)、難民条約への加入(1981年)などを契機に、日本の朝鮮人政策も国際人権の潮流に沿って修正を余儀なくされた。社会保障制度で国籍条項が撤廃され、入管特例法の公布(1991年)により「特別永住者」として在留資格の一本化が図られた。その一方で、朝鮮学校に対する制度的差別、公立学校での民族教育の否定、朝鮮人高齢者の無年金など、政策における差別と同化の本質部分はそのまま維持されている。

あるべき政策―アイテンティティー認める統合政策を

 同化政策の影響を受け、3世、4世の帰化への傾斜が著しくなっている。ここ数年、帰化者は年約1万人を数え、昨年特別永住者数が50万人を切った。同胞社会はアイデンティティーの希薄化、危機に直面している。

 一方、在日朝鮮人の主体的な権利擁護運動の展開と外国人人口の大幅増加の状況変化に伴い、日本の差別・同化政策も転換を求められている。

 @国際人権レベルでの民族教育の保障

 21世紀、在日朝鮮人が民族として生き残るためには、民族教育の保障は最も重要である。すでに指摘したとおり、日本政府は民族教育を弾圧し現在は各種学校の地位にとどまらせ、卒業資格や私学助成など学校に保障されるあらゆる制度から排除している。

 日本政府は在日朝鮮人の歴史性や国際人権法に反して民族教育を否定する政策に固執すべきではない。民族教育の保障は、急激に多民族化していく日本社会にとっても有益であり、東北アジアの平和と発展に貢献する人材を育てる先進的な教育としてますます注目されるであろう。朝鮮学校を1条校に準じて扱い、私立学校と同等の助成金、卒業資格の認定など制度的に保障し、公立学校教育においても民族教育が実施されることが強く求められる。

 A本国国籍の実効性の保障

 日本政府の共和国敵視政策によって、日本では共和国国籍の実効性が遮断されている。さらに、「韓国」政府の棄民政策によって国籍保有に伴う権利義務を実感できない状況が今も続いており、帰化者増加の遠因になってきたと考える。

 日本政府の都合によって、1910年以来、在日朝鮮人は恣意的、強制的に「韓国」籍、無国籍として法的地位を規定付けられている。ことの本質は、個人の帰属意思の自由に関する問題である。国交正常化以前にも日本政府は共和国を国家承認し国籍を公式に認めるべきである。同時に共和国の国籍取得制度、旅券や各種証明書発給など実務上の問題が解決されなければならない。

 B帰化への対応

 帰化の流れを重く受け止め、積極的な対応が求められる。帰化者の増加に対して在日朝鮮人の運動や組織的な対応は積極的ではなかった。同胞社会では国籍と民族を同一的にとらえ、帰化すれば朝鮮民族でなくなるという考え方が根強かったからだ。

 現状では、民族性を維持するために国籍を保持する意義は失われていないが、日本国籍を取得しても民族性を保持する方策も模索する必要がある。帰化に対する意識調査や民族名で帰化などの実態を本格的に把握、研究し、民族名保持の奨励、二重国籍の容認など排除でなく統合の方向性が示される必要がある。

 C北・南・日本3者間合意による在日朝鮮人国籍の確定

 統一時代を迎えた今日、在日朝鮮人の本国への帰属意識も従来の分断意識を克服し統一国家を志向している。今後は本国分断の象徴としての国籍ではなく、統一志向の象徴として在日朝鮮人の国籍が位置付けられるべきだ。

 その第一歩として、朝・日国交正常化を契機に外国人登録証の国籍表示が統一されるべきだ。外国人登録証の国籍表示はあくまでも表示であって国籍自体ではなく、国籍の実効性とは関係がないが、統一表示は統一祖国への帰属意識を育てるのに寄与するだろう。

 国籍表示は当初、朝鮮半島出身者という意味ですべて朝鮮に統一されていただけでなく、かつて分断国家であったベトナム人、ドイツ人の国籍表示も地域名で統一していた。

 日本政府は「日本国籍取得緩和特例法案」を作成し、在日朝鮮人の日本国籍取得を誘引しようとしているが、本国か日本かの二者択一を迫るなといいたい。

 日本に生活基盤がある在日同胞は、祖国と日本との両方にアイデンティティーがある。今までわれわれは、本国と日本の狭間で踏絵を踏まされてきた。さらに本国の分断。この悲劇からわれわれは解放されなければならない。そのためには当然、日本の国籍法の根本的改正がなされるべきだが、本国政府にも主張しなければならない。

 在日朝鮮人の国籍は、南北朝鮮、日本の3者が協議し確定していくべきだ。その際、日本政府による過去の政策の誤りが確認され、在日朝鮮人の意志が最も尊重されなければならない。

 以上述べた課題の実現はわれわれ在日同胞の運動の力量に大きく関わっている。

民族主義の再検討―運動の青写真を

姜誠・ジャーナリスト

 ワールドカップの際に行った「定住外国人ボランティアネットワーク」のプロジェクトには30カ国、550人が参加し、通訳や案内など5都市で活躍した。

 一番の成果は外国人同士交流し、自治体職員と信頼を築けたことだ。

 一方、在日コリアンも考え直さなければと思う点があった。われわれは民族主義という言葉にいい座布団を与えすぎたと思う。

 20世紀初頭、民族主義とは民族自決という言葉だった。ところが冷戦が終わり、民族自決の名のもとに紛争や難民が発生した。

 相対化しなくてはならない民族主義は、一民族一国家主義だ。民族が分布している領域と政治的な領域を一致させなくてはならないというイデオロギーだ。

 今後、日本は外国人が増え続けるだろうが、そこで血統をものさしにした社会統合、政策を維持させていいのかという問題が出てくる。われわれ同胞も、旧来のナショナリズムに基づく運動を構築していくことが難しい時代に差し掛かっていることを自覚すべきだ。二重国籍や本国の国籍を維持したまま日本の地方参政権をとっていくという新たな社会統合の枠組みに耐え得る在日コリアンの運動を提示しないと、われわれ自身が他者を排除する可能性が出てくる。

 今回日本人拉致が判明されたが、われわれも拉致された人間の末えいだ。

 普遍的人権の担い手としての個人という所を見つめなおし、再統合されるホスト社会、本国社会とどのような政治的契約を結んでいくかを考えていくべきだ。

植民地支配の無効性確認を

金一雄・朝大助手

 在日朝鮮人の法的地位問題(権利義務及び待遇に関する問題)は、歴史的特殊性を併せて考えるべきだ。共和国側は第9回会談で在日朝鮮人の法的地位問題を過去の清算問題として位置付けている。過去の清算問題を扱った朝・日平壌宣言の第2項で在日朝鮮人問題を扱っているのもその表れだ。

 在日朝鮮人は朝鮮占領の産物であり、最大の被害者。よって日本政府は朝鮮国民と同様、在日朝鮮人に対しても謝罪の意を表し、地位改善をはかるべきだ。日本人と同様ばかりか、一般外国人に比べ特殊、特別、特例的な地位を保障すべきだと考える。

 ではここで言う在日朝鮮人とは誰なのか。日本の朝鮮占領によって日本に住むことを余儀なくされたすべての朝鮮人を指す。外国人登録上の国籍表記によって区別せず、特別永住者に限定せず、帰化した者を含むべきだ。

 今まで日本政府は共和国を公式に承認していないという口実をもって在日朝鮮人への共和国国籍法の適用を一貫して否定し続け、共和国国籍の取得を理由に日本国籍を離脱する自由を奪ってきた。

 1910年8月に日本が一方的に朝鮮国籍を剥奪し、日本国籍を付与したことが当初から無効であったことを日本政府に認めさせなければならない。つまり、植民地支配が当初から無効だったということだ。

 在日朝鮮人の地位問題に関しては交渉過程で具体的な話が出ていないが、われわれは共和国側に積極的に意見を求めるべきだ。

民族性どうとらえるか

金明秀・京都光華女子大学助教授

 今後日本においても、経済力の格差をもとに外国人は増えていくだろうが、外国人への偏見も生まれるだろう。ではそれにどう対処するか。その方法をわれわれ在日同胞は知っている。外国人の「先輩」として日本社会に提起できる。

 93年に福岡安則・埼玉大教授と民団青年会とともに「韓国籍」を持つ18歳から30歳の男女を対象に調査をした。その回答だが、例えば、「在日韓国・朝鮮人に対して愛着を持っている」と答えたのは全体の50%ちょっと。「日本に愛着を感じる」と回答したのは全体の7割強。さらには「生まれ育ったところに愛着を感じる」が9割近かった。一方「韓国に愛着を感じるか」は38%だった。このように同化は進んでいるが、日本人とまったく一緒ということではない。民族性は測定できる。

 むしろ、一見すると日本人との違いが見えにくくなっているからこそ、失いつつあるものだからこそ、その重要性が際立ってくる。

 ウリマルを話せなかったら、日本人と結婚したら朝鮮人ではないというような減点法で同胞を削るのではなく、加点法で考えることが必要だろう。残り少なくなった民族性でも「自分を誇りに思う」「自分は在日だ」「朝鮮民族だ」というプライドを持つ人たちがいる。それは民族性ではないと否定できるものではない。

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