閑話休題
ロダン展
創造と思索への扉
すばらしい芸術作品に出会った時ほど、人は幸せを感じることはない。
晩秋の10月末、所用で熊本市を訪れた。半日、時間をつぶそうと、熊本県立美術館をのぞいたら、何とロダン展を開催しているではないか。副題は「彫刻を変えた男 その苦悩と変革の軌跡」。 その力強さ。大胆さ。豊かな感情表現。深い思索性によって彫刻に新しい生命を吹き込み、その後の近代彫刻の展開に計り知れない影響を与えたオーギュスト・ロダン(1840〜1917)。 熊本城内の静かなたたずまいの中のモダンで広々とした美術館にも驚かされた。まず、人が少ないのが、何にもましてよかった。東京国立博物館などでは、超過密な観衆とのおしあいへしあいなくして、展示物をゆっくり見るということはできない。見終わった時の疲労困ぱいを経験した人も多いことであろう。 ここにはそれがない。ロダンの彫刻に向き合って思索にふけったり、想像する空間があり、あの名高い「考える人」や「カレーの市民」「地獄の門」「バルザック記念像」などロダンの傑作中の傑作が惜しげもなく並べられていた。しかも辺りは静寂そのもの。こんな機会は偶然中の偶然であり、そうめったにあるものではないだろう。今もその余韻が細胞の隅々に残っているような気分を味わっている。 人は芸術作品を自分が思いたいように解釈する。不世出の彫刻家・ロダンについていまさら何を評することもない。ただ、何よりも創造の欲望に忠実に生きた芸術家の苦悩する魂に触れたような気がした。(粉) |