公安調査庁次長の総聯に「破防法適用」発言
「敵」作る発想、まさに戦争前夜
東京学芸大名誉教授・星野安三郎氏に聞く
国会の衆議院金融財政委員会で11月8日、中川正春衆院議員(民主党)は総聯に破壊活動防止法(破防法)を適用し、解散まで持っていくべきだと質問。これを受け栃木庄太郎・公安調査庁次長は、「破防法の適用も考えつつ調査をしている」と答えた。解放前、在日朝鮮人の独立運動を取り締まった「治安維持法」を受け継いだ破防法。朝鮮戦争の最中、社会的な反対を押し切って成立されたこの法律は、在日朝鮮人の生活と思想を監視する機能を果たしてきた。なぜこの時期に「破防法」適用の発言が飛び出したのか。星野安三郎・東京学芸大名誉教授(憲法学、81)らにその背景を聞いた。
「北への抑止」公然と 朝鮮戦争前夜を思わせる発言だが、そのことを象徴する事実をいくつか述べたい。 第1に、陸上自衛隊の松川正昭・西部方面総監は11月18日、大分の日出生台演習場前で日米共同演習に反対する地元住民らに対し、「どうして訓練に反対するのか、訓練は『北朝鮮への抑止力』になる」と発言した。松川総監は、通りかかったジープから戦闘迷彩服姿で突然降りてきて集会参加者に詰め寄り、部下に制止されながらも集会の中止を訴えた。「反対集会が報道されることで、訓練内容が相手に知られるのではないか。私はここの責任者だ」とも詰め寄った。 思想信条、言論、結社、集会の自由を保障した憲法を否定しなければ侵略戦争を行えないことを端的に示した発言だ。 問題は松川総監の高姿勢の背景である。 自衛隊法改正案を解説した防衛庁のホームページでは、敵との戦闘により敵兵を殺しても刑法の殺人罪などの適用を受けないこと、さらに自衛隊の戦闘行為によって民間人に被害を与えても補償しないと公言している。国権の発動たる戦争と交戦権を拒否した憲法9条を真っ向から否定するものだ。 人道支援も拒否 第2に石原慎太郎・東京都知事が11月28日の定例記者会見で、外務省の公益団体である「日本外交協会」が都から譲り受けた食糧を朝鮮民主主義人民共和国に提供したことについて「どういうことか」と怒った発言だ。 自分が首相なら共和国に宣戦布告すると言ってはばからない石原知事。食糧不足に苦しむ幼い子どもや老人の命をどう考えているのだろうか。「人道支援」の精神すら否定するこの発言は、今から国交を結ぼうとする相手に対する態度だろうか。 そして公調庁次長の破防法適用の発言。質問に立った中川議員は「共和国への送金、拉致事件への関与」をあげ、総聯に破防法を適用し、解散まで持っていくべきだと主張した。 話を戻そう。自衛隊が任務に「戦闘」を加えた意味は何か。それはまさしく戦争をするためだ。戦争は敵と味方を分けてこそ可能で、中川議員、そして総聯に「破防法の適用を考えつつある」との公調庁次長の発言はまさに、在日朝鮮人は敵性外国人だということを告げているに等しい。 日本の朝鮮植民地時に起きた関東大震災(1923年)では数千人の朝鮮人が流言飛語によって殺された。戦後の49年には朝聯が破防法の前身である団体等規制令によって解散させられた。戦争をするために日本は、在日朝鮮人を「敵」に作る必要があった。だからこそ、偏見を煽った。 破防法は人権侵害、憲法違反の法律だ。百歩譲って同法を適用するにしても殺人、放火などの暴力主義的破壊活動の事実がなければならない。 根拠もなしに在日朝鮮人の権利を守ってきた団体の「解散」が公然と叫ばれる。拉致事件によって反共和国感情が膨らみ、今やこの発言が問題にもならない日本の現状に戦争前夜の恐ろしさを感じる。 人類の英知を では、私たちには希望はないのか。ここで私は45年12月に制定されたユネスコ憲章の前文を思い起こす。 「政府の政治的及び経済的とりきめのみに基づく平和は、世界の諸人民の一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」 戦前戦後を通じ、日本政府の在日朝鮮人政策は差別で一貫してきた。しかし、一方で戦後、日本市民と在日朝鮮人は隣人として手をつなぎ連帯を培ってきた。ユネスコ憲章は、人類を巻き込んだ戦争への反省、教訓を汲んだものだ。戦争への足音が聞こえてくる今こそ、未来を開く希望を人々の連帯に託したい。 国交求める世論に逆行 田代博之弁護士 破防法の最大の問題点は、容疑団体に対して明白な危険が存在しないにもかかわらず、安易な情報収集を許していることだ。 これは、疑われている政党や団体の結社の自由に対する重大な侵害だ。 よって、「総聯に対して破防法の適用も考えつつある」との発言は、公安調査庁が人権、平和を守るための総聯の活動を故意にゆがめるものだ。また、多くの国民が望んでいる朝鮮民主主義人民共和国と日本の国交正常化を妨げようとする意図的なものだと言える。 朝・日のみならず、北東アジアの平和を脅かす発言。日本政府に対して厳重な抗議が必要だと思っている。 当初から総聯が破防法の容疑団体となり、事あるごとに同法の活用が叫ばれてきたのは、植民地支配に対する反省がないからだ。 歴史に逆行するこの発言に負けず、朝・日国交樹立の大道を作り上げるため、日・朝連帯の世論を築いていくことが必要だと思う。(浜松市在住) |