取材ノート

「原点に立ち返ること」


 「私たち1世は言葉では表現できない苦労を重ねてきた。この証言集には1世の血と涙、悲しみが染みこんでいる。しかし今日この場に参加して、それぞれが今も頑張っている姿を見ることができてうれしい」

 先月30日に茨城で行われた強制連行・強制労働に関する証言収集総括の集いで、あるハラボジが述べた言葉だ。

 総聯茨城県本部を中心に郷土史研究家や弁護士などで組織された「県在日同胞証言収集委員会」は、7月26日にホットラインを開設、地道な聞き取り調査を行ってきた。その成果を集め今回証言集を発行する運びとなった。

 集いに参加した1世たちは、最近の日本の報道について話し合いながら、「日本人拉致のことを連日伝えながら、強制連行や強制労働についてはまったく知らせようとしない。悔しくて眠ることもできない」と怒りをあらわにしていた。

 一方で、この現状を打開するためにはどうすべきかについて、「10の会合に出たらせめて1、2カ所では総聯、民団の垣根を越えて民族同士団結していこうと訴えていこう。われわれの子どもや孫のことを考えれば、あくまでも民族は守りぬかなければならない。『もう年だから』などと言わず、もう少し頑張ろう」と話す1世たち。

 苦労に苦労を重ねてきたハラボジ、ハルモニたちが、自分たちにはまだやるべきことがあるんだと励ましあう姿に心打たれた。

 こうした1世たちの思いが民族学校を立ち上げ、こんにちに至るまで在日同胞社会を守ってきたのではないだろうか。日本のマスコミはしきりに「総聯の内部分裂」をうんぬんしているが、「民族性を守る」というコアな部分は1世から2世、3世へと連綿と受け継がれている。

 厳しい情勢の中だからこそ、「原点に立ち返ること」がいかに大切であるかをあらためて考えさせられた。(松)

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