年間平壌レポート
2002年、朝鮮に吹いた「変化の風」
今年、平壌から送った記事では、「初めて」「同時進行」という言葉を多く用いた。6月、南で行われたサッカーワールドカップの試合が放映された。9月には、南の人気ロックバンドが出演したMBC平壌特別公演を南北全土に生中継した。かつては考えられなかったことだ。9〜10月に釜山で開かれた第14回アジア競技大会に北側は大型選手・応援団を派遣した。経済分野では、全般的経済管理改善措置に続き、新義州特別行政区、開城工業地区、金剛山観光地区が制定され、注目を集めた。今年、朝鮮には大きな「変化の風」が吹いた。現場で取材活動にあたった本社記者たちも、その変化を実感した。朝鮮の2002年を振り返ってみた。【平壌支局】
実利中心の発想、様変わりした市民生活 今年、平壌市民の意識を変えた出来事として、まず経済管理の改善措置を挙げることができる。国家は、工場・企業所の経済活動において、徹底的に実利を追求するよう求めた。7月からは全般的価格調整が実施され、コメの価格など物価は「適正価格」に引き上げられる代わりに給料も上昇。人々は働いた分だけ報酬を受け取れるようになった。 業績に応じて分配が左右されるとあって、労働者の労働意欲も向上した。各企業所では、業績を上げるため知恵をしぼり仕事に励んでいた。 大マスゲーム・芸術公演「アリラン」の上演期間中(4月末〜8月15日)、市内に設けられた露店で働く販売員の態度にも変化が見られた。商品について丁寧に説明し、他の店よりも安く質も良いと、積極的に購入を勧めていた。 「売ってあげる」という態度から「買っていただく」という態度への変化を示すもので、サービス精神が目ばえつつあることがうかがえる。 一方、家庭では1カ月の生活費を事前に計算し、できる限りの節約に努めていた。 市民は、「実利」を自分の生活と結び付けて考えるようになっている。会話からは「実利」という言葉がよく聞かれ、冗談話にも登場するほど。古い発想は、「実利」という言葉をもって批判の対象にされた。 今までは上司の指示を待って、与えられたことだけを行う傾向があったが、自分で考えて判断する自発的行動が目に付き、創意工夫の努力がうかがえた。 「コンダルクン(怠け者)は許されない」。そんな風潮が根付き始めたようだ。 北南行事のなごやかな雰囲気 9月以後、平壌支局のスタッフは、事務所を留守にすることが多かった。北南統一行事・会談の取材のため、金剛山などへの出張が増えたからだ。 今年、北南の交流事業はいつになく活発だった。 北南関係が活発化し、北と南の人々が互いに往来しながら、交流を積み重ねる中で、北側の人たちの、南に対する意識も大きく変化した。 金剛山の統一行事参加者の行動は自然で、自由な雰囲気に包まれていた。青年学生統一大会での登山の際、北と南の青年たちはにわかカップルになって、2人だけの時間を楽しんでいた。 6.15共同宣言発表後の2年間、数多くの統一行事が催された。最初の頃は、北側参加者の中に緊張した雰囲気があり、役員たちも実務的にスケジュールをこなす傾向があった。 だが今年の北南行事では、とても自然な形で同族の情をわかち合っていた。 朝鮮中央テレビを通じ、こうした統一行事がそのつど放映されたことによって、市民にとって南の人々の姿は一段と身近なものになっていった。とは言え生中継されたMBC平壌特別公演のロックバンドの姿には驚いた様子。「感情と感覚が合わない」というのが大半の意見だった。しかし、涙を流しながら統一の歌を熱唱する南の歌手の姿に、もらい泣きしたという市民も少なくなかった。 また、新婚生活をおくる家庭の主婦は、「私たちの結婚を南の人も祝福してくれてる」とご機嫌。夫婦で楽しくテレビを見たと語っていた。 「ソウルにはいつ降るの」「釜山には雪が降るのかしら」。11月中旬平壌に初雪が降った時も市民の会話からは南の話が自然に出ていた。 21世紀戦略、実践段階に 朝・日平壌宣言の採択など、朝鮮は関係国との改善にも努めた。 朝鮮の一連の動きは、統一とその環境づくりに向けた21世紀の国家戦略が実践段階に至ったものと評価できる。市民の意識を大きく変えていったのも、新たな時代への展望があってのことだ。 朝鮮の政策は、変化する内外情勢に主体的、積極的に対応するための措置と言える。 西側のマスコミは、朝鮮の内外政策に対して、「孤立国家」の「生存戦略」といった次元でとらえているが、朝鮮の21世紀戦略は、明らかに朝鮮半島と北東アジアの地殻変動を念頭に置いたものだ。 その事例が北と南、ロシアとヨーロッパを結ぶ鉄道連結工事の本格的な始動である。2000年北南首脳会談の過程で浮上した構想が今年になって本格化した。 冷戦構造が崩壊した現在、関係国が自国の利害関係に基づいて行動するようになったなか、朝鮮半島を起点とした鉄道連結の意義は大きい。これは、北と南はもちろん周辺国の利益にもつながる事業であり、一度進みだせば決して後退できない事業となっている。米国が鉄道・道路の連結を妨害しても、事業が進展を見せていることからも、そのことは明らかだ。 21世紀戦略を貫徹しようとする朝鮮の強い意志。来年の展開が注目される。 |