メディア批評(11)―長沼石根
パターン化したW杯共催記事
「北」との間でもカベ取り払え
サッカーのワールドカップ(W杯)が4カ月後に迫っている。たかがサッカー、されどW杯である。欧州ではオリンピックを凌ぐ、スポーツ界最大のイベントらしい。
いうまでもなく、今回は日韓共催である。スポーツ報道を中心に、「韓国」がこれまでにましてメディアに登場する。あやかって、本欄も今回はW杯周辺の話題を中心に―。 NHKテレビが1月7日から3日間、主婦向けの番組「生活ほっとモーニング」で「魅力再発見! 韓国ぐるり旅」を特集した。「健康法・美容法」「キムチ」とテーマは平凡だったが、さすがNHKというべきか、抑制のきいた取材は、芸能レポーターに頼って脱線しがちな民放番組とはひと味違った。 目からウロコ、だったのは、老後の過ごし方に焦点を当てた最終回。高齢者が自由に集まる地域コミュニティーの拠点・キョンノダン(敬老堂)やソウル老人福祉センターの在り様。カルチャーセンター形式の後者には、朝から高齢者が列を成し、昼食づくりはボランティアの若者が担当していた。いっさいが無料だという。高齢者たちの動きのいいこと! W杯関連では競技場を案内する通訳も主役はお年寄りのボランティアだった。 敬老思想が根づいている国のこととはいえ、一驚二驚。彼我を比較するのはあまり好まないが、登場する人々の表情を見ているうち、この方面では韓国の方が日本のはるか先を走っていることを知った。 ほかに、市場に運び込まれる白菜のヤマなどいくつものシーンが目に焼きついている。映像の力はやはりあなどれない。 W杯では朝日新聞が国内の公式サプライヤーになっている。報道機関の参加についてはすでに論じられているのでふれないが、朝日がはしゃぐ程に読売の視線が冷ややかになるようにみえるのが、いかにも日本的でおかしい。ライバル意識は取材合戦に向けてくれた方が、読者は有り難い。 その朝日が9日付で、「日韓交流特集号」と銘打った「朝日こども新聞」を発行した。3泊4日の現地取材にあたったのは、全国から募集した21人の「子ども記者」。もちろん李姫鎬・韓国大統領夫人との会見をはじめ、企画の多くは本職の記者が練り上げたのだろうが、彼らが表面から退いて、子どもたちを前面に立てたのが成功している。 21人は、小中学校やインターネットカフェ、格安店などを訪ね、ホームステイやテコンドーに挑み、普段の紙面では窺えない韓国の一面を伝えている。皮肉なことだが、大人の視点に疑問を突きつけているようにも見えた。 「朝小リポーター、韓国の少年記者の座談会」の中には、「サンマ漁問題について、どう思う?」「小泉首相が韓国に来たとき、韓国の市民がすごく反対していたのを知ってる?」といった問いかけに日本の子どもが首を傾げたり、逆に「いつ遊ぶの?」と聞かれた韓国の少年が「日曜日も塾だから、遊ぶ時間はありません」と答えたり、要するに大人のメディアからは伝わってこない息づかいが感じられた。こうした会話を積み上げていく中で、日韓のカベは徐々に取り払われて行くのだろう。 そこで、ふと思う。なぜ、同じ企画が「北」との間で出来ないのだろうか。これも大人の常識が邪魔しているのではないか。ダメもとである。「北」にも申し入れたらいい。また、全てを「こども新聞」に閉じ込めないで、本紙で活かすことも考えたらいいのに。 朝日と読売がにらみあっている間隙をぬうように、毎日が味のある紙面を作っている。 家庭面でチヂミやピビンバの料理法を紹介(16〜18日)したり、日本の家庭の鍋料理のレパートリーにキムチ鍋が新たに加わったという調査結果を報じたり(17日)、また「学生ウイークリー」欄で86年に始まった日韓学生フォーラムの日本学生の勉強合宿をリポートしたり(19日)。そのリポートの中に、「38度線ってなあに? 気温で分けてんの、暑くないの?」とか「離散家族」も「李さんの家族問題」と思っていたらしいという女子学生の話があって、ふき出した。 先に紹介した「子ども記者」も目を白黒ではないか。いや、笑いごとではない。こうした学生がいるのも現実である。メディアは彼らも放ってはおけない。やれやれ。 メディアから人間臭さが消えていく。W杯近しとあって、日韓国民交流年の親善大使を務める金允珍や藤原紀香、W杯開会式の演出監督に就いた孫★(木偏に辰)策などにスポットライトがあたっているが、多くはパターン化した紹介の域を出ていない。 やはり毎日の25日付夕刊に「北朝鮮 二つの顔の裏側」という記事があった。見出しにある「カギ握る2人のKJ」とは金正日総書記と小泉首相のことで、いささか牽強付会の感じはするが、発想は面白い。 気になる人物がいる。韓国サッカー協会会長で国際サッカー連盟(FIFA)副会長の鄭夢準。50歳。「北」出身の現代グループの創業者鄭周永の6男でもある。いうまでもなく、W杯の日韓共催、つまりは韓国誘致に導いた最大の功労者だが、日本のメディアの扱いはまるで冷たい。 知り合いの記者によると、政治的野心が強い、スタンドプレーが鼻につく、何より日本の単独開催を阻んだ憎い奴、といったことが彼に距離を置く背景にあるらしい。そういうこともひっくるめて、統一評論2月号の「二〇〇二年ワールドカップ 鄭夢準の野望」(任恩寿)が面白かった。日韓共催を実現した後も、南北共催、南北分催をぶちあげたり、一方で「中国の試合を強引に韓国に引っ張ってきた」(同誌)り、江沢民中国国家主席の開会式出席をとりつけたりと、押したり引いたりの手並みは半端ではない。天皇訪韓の仕掛人も彼だった。 中央公論の2月号でジャーナリストの石川保昌は、鄭夢準が「北朝鮮での1試合開催や南北合同チームの可能性について言及しつづけている真意を、日本のサッカー関係者やマスコミも、揶揄するだけではなく、敬意を持って理解することが必要なのでは」(「日本のセキュリティーは大丈夫か」)と指摘している。見識というものだろう。 鄭は現職の国会議員である。北を出自としているから、いわゆる地域エゴと縁がない。だからこそ、次々回の大統領選の台風の目になるだろうと、あえてここで予言しておく。 折も折、「北」が4月末から平壌で開催する「アリラン」祭典に、韓国からの一般観光客を金剛山からバスで移動する案を示した、と22日付の韓国各紙が伝えている。「北」が南の観光客の陸路移動に言及したのは初めて。今後の動きをフォローしてほしい。 (ジャーナリスト) |