春・夏・秋・冬

 前号8面で紹介した「明らかになった『太平丸』事件」。朝鮮をはじめアジア各地での日本による強制連行、性奴隷被害者の実態調査、追及を行っている伊藤孝司さん(フォトジャーナリスト)の力作である。米軍の攻撃があることを承知して出港したとの日本人乗組員の証言は、改めて朝鮮人の命など、これっぽっちも考えていなかった日本帝国主義の非道ぶりを示して余りある

▼周知のように、多くの朝鮮人らを死に追いやった侵略戦争の最高責任者の科(とが)は問われなかった。無罪放免である。東条英機らごく一部の人間は戦犯として捕らえられ処刑されたが、しかし、今に至るも日本は不法な植民地支配の過去を清算、補償しようとしていない

▼釜山で生まれ、10歳頃の時に渡日したという知り合いのおじさんがいる。いや正確には、いたである。「もう1度、故郷にいってみたい」が口癖だった。そして、たまに顔でも会わそうものなら「おい、南と北のトップが会ったのだから、もういけるんだろう? 年が年だからはやくしてもらわないと、なにしろ俺には時間がないんだから」と、いつも詰問調で語りかけてきた。しかし、その夢も果たせないまま先日、親兄弟の元へ旅立っていってしまった

▼「恨」(はん)と1言で片付けてしまうことはたやすいが、なぜ自由に故郷と行き来することができないのか、物理的障害に対する腹立たしさ、じらされ続けることの精神的な圧迫感は、彼ら1世たちをさいなみ続けたに違いない

▼無念をはらす、という過去形とは1日も早く決別しなければ。(彦)

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