「海を渡る光と影」 全浩天著

思索深め、視野広げ、感覚磨く


朝鮮青年社刊
2190円+税


 本のタイトル「海を渡る光と影」。悠久な朝・日関係が端的に表されている言葉だ。著者の歴史家としての学問の集大成と情熱がこの1冊に込められている。副題は「日朝関係の基礎知識」。

 著者は言う。「21世紀の新地平に立って2500年間の朝鮮と日本の関係をふりかえってみるとき、朝鮮海峡・玄海灘と朝鮮東海・日本海をはさんでの最も近い国の関係がどうあるべきか、あらためて問われているように思います。…縄文時代の晩期、弥生時代から今日までの南北朝鮮と日本との関係・交流には望ましい肯定的な明るい光の流れとあってはならない否定的な暗い流れがありました」。

 光の部分と闇の部分をつらぬいて明暗を分けてきたのは、著者が指摘するように「両民族・両国家間の友好と親善および日本列島からの侵略・襲撃と朝鮮、朝鮮人をどう見るのかという朝鮮観でありました」。この視点こそ、古代から現代までの両国関係を見るうえのキーポイントであろう。例えば、米国や日本のメディアによるテロと米国によるアフガンへの無差別報復攻撃を同列に置く報道、あるいはパレスチナ人による自爆攻撃とイスラエルの報復を同列で扱う理不尽さに思いを致せば、朝・日関係全般にわたる認識も深まるだろう。しかし、残念ながら日本の中には、圧倒的な加害者と被害者の関係を倒錯させた歴史認識が横行している。その認識の貧困さの上に胡座をかき、正しい知識を得ようともしないあさましさが、日本列島を覆い尽くしているのが現状だ。

 ブッシュが朝鮮民主主義人民共和国を「悪の枢軸」と言い掛かりをつければ、日本の首相やメディアはすぐそれに迎合し、同じ言質を繰り返す。それは「テポドン」報道でも同様で、ヨーロッパの指導者やメディアの反応とは対称的なものであった。

 著者はこうした現状を深く認識したうえで、朝・日関係の長い歴史を俯瞰(ふかん)し、そこに立ち止まり、さまざまなエピソードを織り混ぜながら、歴史を人間の作り出した営為であることを実感させた。

 例えば、平成天皇も昨年末、明言したように「桓武天皇の生母は高野新笠という百済の武寧王の子孫」であること、桓武が母を愛し、敬慕し、誇りを持ち、「正史の『続日本紀』に母の系譜を書かせたこと」。さらに百済の血を引く桓武と天台宗延暦寺の創建者・最澄が、共に利用、協力しながら成功したのは、秦氏や近江・琵琶湖の新羅、百済の渡来人勢力が強力に支えたことなど、興味を引く話が満載だ。

 また、中世にもあった朝・日関係の悪化が、時の政府のリーダーシップによってことなきを得た事実など、現代に生かすべき実例も多い。室町時代の将軍、足利義持は、李朝4代の世宗大王が、倭冦の根拠地・対馬を叩いた時、ソウルに特使を送り、その意図をただした。これに応えて世宗大王も京都に特使を派遣。こうした両国政府の努力によって、相互不信、悪感情が消え、善隣友好が続いたのである。

 現代史から見た過去の歴史の教訓が生き生きと蘇り、一石何鳥もの面白さを本書は運んでくれる。それは、正しい歴史認識とは何か、そして、国際ニュースや朝・日間にまたがる謀略、怪情報を見抜く力と視点、研ぎ澄まされた国際感覚を与えてくれるだろう。思索を深め、視野を広げ、感覚を磨く絶好の歴史書といっていいだろう。(朴日粉記者)

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