女のシネマ

折り梅

老人介護への応援歌


 痴呆症に苦しむ老親と、その家族の苦闘を描いた。家族再生と老人介護への応援歌。

 会社員の夫と2人の子ども、パート勤めの主婦巴が姑の政子と同居して3カ月。変調をきたし始めた政子。シーツを切っては作る雑巾を毎朝手渡してくる。ゴミ袋を隣家の玄関先に捨ててくる。貴重品の置場所を忘れていつも巴を疑う。突然激情にかられて、昼食の弁当をぶちまける。寝巻きのまま雨の町をはいかいする。アルツハイマー型痴呆症の初期症状だった。

 夫は見て見ぬふり、子供たちは遠まきに眺めている。一人悪戦苦闘し、孤独な介護を続ける巴は、心身共に疲労困ぱいし寝込む。今や家庭は崩壊寸前。万事休すの思いで、政子をグループホームに託すことに。

 巴に連れられてホームに向かう途中、政子は初めて自らの辛い半生を語る。幼ない日の母との別れ、義父の暴力、夫の死。針仕事で必死に4人の子供を育て上げたと自負する政子。巴の胸は、凛(りん)と生きた人生の先輩への熱い尊敬と、姑への愛しさで満ちあふれていた。

 この感情につき動かされ、巴が変わった。夫も子供らも変わった。隣近所に理解を求め、パート仲間の助けも借りた。何よりも痴呆の進行に苦しんでいた政子が、ホームへ通い出して新たな命の輝きに恵まれた。

 「折り梅」とは、梅は折れて老木となっても、枝からつぼみが生まれて美しい花を咲かせることにたとえて、家族と政子の再生を示唆。日常生活の中で人の老いと生を丁寧に描きながら、老人介護をめぐる個と社会の関わりを柔らかく築いてゆく視点が温かい。松井久子監督。111分。日本映画。シネスイッチ銀座。(鈴)

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