春・夏・秋・冬

 歴史を知ることの重要さは、何も今さら強調する必要はないと思う。しかし、あらためてそのことを思い知らされた出来事に出会った。といっても新聞ネタになるような事件でもなければ、この社会にありがちな暴言の類いでもない。戦争世代の、日本人大先輩の話である

▼「これ、なんだかわかりますか」、といって見せられた古ぼけた1枚の写真。そこには花崗岩で作られた立派な墓銘碑1基と、その周囲を取り囲む人々の姿が写っていた。背広姿の人に混じって半袖姿の人も見える。撮影した時期は夏を前後した頃と思われた。墓銘碑には「日本人合葬位址」とある

▼侵略戦争時に戦死した、日本兵の慰霊碑の類いだろうと思ってその旨を告げると、「そう。しかし、どこにでもあるような物ではなくて、平壌にある慰霊碑なんですよ」。耳にしたことはあるが、写真であれその実際のものを確認したのは初めてだった。「日本の敗戦後、朝鮮政府が朝鮮半島で亡くなった日本人の霊を弔うために建立したものです」

▼この大先輩、日朝の友好運動に身を投じて40年以上にもなる。「私は、苛烈な侵略を受けた朝鮮がこのように日本人死者たちの霊を弔っている事実を知り、なんとかして私たちの世代が生きている間に、きちんと過去を清算し償わないと、と思って老骨になるまで鞭を打ってきたのです」

▼知っているようで知らぬ歴史、風化してしまった歴史。こうしたちょっとした歴史の一端を伝え、積み重ねていく作業が重要なのだろう。(彦)

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