未来生きる子供たち励ます
小6少女の等身大の成長物語
李慶子著「はなぐつ」 アートンから出版
本紙に「こども昔話」を1年間連載した李慶子さんの書き下ろし作品「はなぐつ」が、この度アートンから出版された。
はなぐつは、朝鮮の民族靴。別の名を「コムシン」ともいう。カラフルな色彩と花の模様で飾られたこの靴は、主に女性や幼い子供たちに好まれている。 小人の舟 物語の舞台は、北陸の小さな町。小学6年生のみすずは、夏休みも終わりに近づいたある日、親友の志津と一緒に夏休みの絵の宿題をしに、おじぎそう公園に出かけた。が、そこで先がそり返った奇妙なものを見つける。ゴム製の、ボートのような形のものだった。 ボートと違うところは、手のひらに乗る大きさで、赤や青や黄色の小さな花模様がたくさんついていること。みすずはこれを「小人の舟」のようだと喜ぶ。 しかし、みすずが「小人の舟」を家に持ちかえったことが原因で、両親は喧嘩をしてしまう。はやく捨てて来いという母親と、みすずをかばう父親。普段はみすずにとても甘い母なのに。 「小人の舟」を見たとたん、母はまるで別人のように険しい表情になったのだ。みすずはそんな一件があったことを、親友の志津には話せない。 「チョウセン帰れ」 12月になり、親友の志津の家でもある法倫寺で、毎年恒例のクリスマス・イブのチャリティーバザーを開くことになった。今回のテーマは、「北朝鮮の食糧難を救おう!」。宣伝用のポスターを子供たちが手分けして描くが、ポスターを張りに出かけた先で、みすずたちは思わぬことに遭遇した。 「こればっかりはねぇ。ほら、うちは客商売だから、日本に向けてミサイル打ち込むような国に援助するバザーのポスターは、ちょっとまずいのよ」と、パン屋のおばさん。 それだけではなかった。マンションの掲示板に張ったポスターがびりびりに破かれたり、「チョーセン殺す」と赤いマジックで書かれたり…。翌日には、新たに30枚近いポスターがはがされ、「チョーセン帰れ」「チョーセンきらい」などといった乱暴な殴り書きがされていた。 子供らの成長 本書には、みすずを取り巻く人々が織り成す日常が丹念に描かれている。そして在日コリアンとしての苦悩や葛藤を抱えながら生活する人の姿も描かれている。それらを通じて成長していくみすずら子供たちの姿がみずみずしい。 作者の李慶子さんは、あとがきに「子供のころ、私はコムシンがきらいでした」と書いている。理由は、この靴が朝鮮民族の象徴のように思えたから。現在日本で暮らす在日のおおかたは、強制連行あるいは日本の植民地支配によってやむなく海を渡ってきた人たちと、その子供や孫たちである。李さん自身もそのひとりだ。過去の植民地支配の「負の遺産」である、根の深い民族差別や偏見の中で暮らす同胞たち。物語に登場する、みすずの母もコリアンの血を引いている。最初、はなぐつを拒む母に、李さんは以前の自分を重ねたのだろうか。 未来を生きる子供たちに、コリアのこと、在日コリアンのことを知ってもらいたい。そして、理解を深めてもらいたい。そんな思いが伝わってくる1冊である。(金潤順記者) 問い合わせ先=アートン(TEL 03・5459・2752)。定価1200円+税。 |