それぞれの四季
あきらめないで
ウォン・ジョンヒ
保険証の価値がどんどん下がっている。窓口負担引き上げとともに、保険外診療や差額ベッド料規制緩和などの特定療養費がさらに拡大される。そして「社会的入院」解消をねらった医療保険の新ルールも始まる。今後、入院患者は「タライまわし」さえもしてもらえない…といったことを、組合員や患者さんに説明するのも仕事の1つだ。事実を話しているのだが、相手の暗くなっていく顔をみると、自分が弱い者を脅しているかのように感じる。
ある老人は、私のような若輩者の前で、泣き出してしまった。切なさで胸が締めつけられそうになった。「あきらめないで。まだ案の段階で、決まっていないことも多いから。反対の声を大きくして止めさせましょうよ」という私の言葉に、老人は体を震わせ答えた。「私には何もできない。死ぬしかない」。 その老人にはまだ海外旅行ができる充分な体力と立派な一軒家、私の収入以上の年金がある。「死ぬしかない」という言葉の背景には、経済面だけではないいろんな事情が伴うのだろう。でもそのかわいそうな老人に私は心の中でつぶやく。 「在日の高齢者の中には、無理やり日本に連れてこられ差別を受け続け、そして今なお年金ももらえずに生きている人がいます。でもその人たちは、死ぬしかないなんて言わないと思います」 もちろん口には出せない。コセン(苦生)を知識でしか知らない私が言えるはずもない。私は日本人であるその老人に願いを込めてもう1度言った。「あきらめないでください。この国に住む全ての人のために」。(医療生活協同組合職員) |