牛肉消費回復で何ができるのか―BSE国際シンポジウム
「全頭検査」で安全 消費者にどう知らせるか
昨年9月に日本国内でBSE(いわゆる狂牛病)の牛が発見されてから半年。今月2日にはBSE調査検討委員会の報告書が発表され、政府の失政を厳しく非難した。だが、この騒動で大きな被害を受けた肉牛・酪農産業、食肉販売業者の状況は依然として厳しいものがある。在日同胞が多く携わる焼肉店の売り上げは、BSEの牛が見つかる前を超えるまでに回復してきていると言われる(全国焼肉協会の発表)が、畜産農家、食肉販売業者などは将来の展望が描けていない。そんな中、畜産および畜産関連産業が牛肉消費回復のために何ができるのか、消費者の信頼を回復するにはどうしたらよいかを話し合う国際シンポジウム(同実行委主催)が8日、東京で開催された。全国農業協同組合連合会、全国酪農業協同組合連合会などが協賛した。
事実の提供大切 シンポジウムではまず、2人のゲストスピーカーが講演した。
ドイツから来日したラドルフ・オバーチュール氏はEU(欧州連合)レンダリング協会の役員を務める科学者。レンダリング業経営の一家に生まれている。 「BSE―ヨーロッパの経験」と題して講演した氏は、欧州、とくにドイツにおけるBSE問題の流れを説明。BSEの牛が発見された後、ドイツ政府が迅速に対応したため、牛肉消費量も速やかに回復したと語った。 そして、消費者の信頼を回復するには、消費者とのコミュニケーションをはかることが大切だと指摘。消費者の健康を守るためにどのような措置をとっているかを知らせることが重要だと述べた。 米ハーバード大学リスク分析センターでリスクコミュニケーション部長を務めるデイビッド・ロピック氏は、人がどのような状況に陥った時によりリスクを感じるかを、わかりやすく解説。BSEへの恐怖心を軽減するためには、事実を提供し知らせることが大切であり、生産者側がもっとマスコミを利用して消費者とのコミュニケーションをとるべきだとアドバイスした。 安心して食べて 第2部では、国際獣疫事務局(OIE)アジア太平洋地域事務所特別顧問の小澤義博氏、京都大学大学院農学研究科・フードシステム教授の新山陽子氏、東京都食肉事業協同組合事務局長の大野谷靖氏、樺ケ山畜産食品・拠ケ山牧場代表取締役の鳥山晃氏ら7人の専門家、畜産業者らをパネラーに招いて、活発な意見交換が行われた。 小澤氏と新山氏はそれぞれ専門家の立場から問題提起。新山氏は、トレーサビリティーの必要性について説いた。 生産者、食肉流通業者側からは発生当時は売り上げが大幅にダウンするなど、深刻な事態を招いたとの報告がなされたが、幸い、3月に来てからは売り上げが徐々に戻ってきているという。それは牧場経営者も焼肉店経営者も共通した意見だった。 しかし、東京で焼肉店を営む経営者の場合、今回の騒動で4店舗を2店舗に縮小せざるを得なかった窮状を吐露。政府などによる緊急融資も、返済しなければならないと思うと毎月の支払いが増えるだけで、結局活用しなかったという。 大野氏は、昨年9月にBSEと思われる牛が発見されてから、都内20店舗の肉屋を対象に売り上げの聞き取り調査を続けている。その平均牛肉売り上げ減少の推移をグラフをもとに解説。それによると、昨年9月以降下がり続けた売り上げは、芝浦の「幻の2頭目」問題発生直後に底をつき、10月18日に全頭検査が開始された後に徐々に回復した。しかし、2頭目の牛発見後、再び下がり、その後、回復したが、今年1月の雪印の偽装事件発覚後はほぼ横ばい状態だという。ちなみに、焼肉店の場合は、その後、売り上げが上がっていったとされる。 大野氏は、芝浦の「幻の2頭目」、そして全頭検査を通じて2頭目が発見された際のマスコミ報道が、売り上げ減少に少なからず影響を与えたと指摘。BSEに関するマスコミの報道姿勢に対して憤りを示した。 結論としては、今後全頭検査を通じてBSE感染牛が発見されたとしても、これは検査態勢がしっかり整っている証拠であり、その肉が市場に出回ることがない点を強調。それを消費者にきちんと知ってもらい、安心して牛肉を食べてもらうのが肝心だとの見解で一致した。 同様のシンポジウムは10日に札幌でも開かれた。7月には第2弾も予定している。(文聖姫記者) 【参照】 レンダリング工場 と場で肉をとった後の家畜の皮、内臓、頭、肢などを加工処理する化製場。 トレーサビリティー 直訳すると追跡可能性。記録された証明を通して、ある物品や活動について、その履歴と使用状態または位置を検索する能力。EUでは食品法の一般原則に取り入れられている。疫学的対策の完成度の向上、万一の事故に備えた的確で迅速な製品回収、消費者などへの情報提供という目的から、BSE対策に導入する必要性が提起されている。 全頭検査 日本国内の食肉処理場で解体されたすべての牛について特定危険部位を取り除いて、これらの部分を焼却処理し、採取された脳の組織を検査し、陰性であった牛の肉と内臓のみ出荷するシステム。昨年10月18日から実施。 |