閑話休題
97歳の大往生
20世紀に刻んだ女の一生
実に晴れ晴れとした笑顔だった。昨春71年ぶりの故郷を訪ねた東京・葛飾四ッ木分会顧問金吉徳ハルモニのうれしそうな顔が今も心に浮かぶ。そのハルモニが4月25日、帰らぬ人に。97歳の大往生だった。
周囲の人は誰もが白寿(100歳)を迎えるものだと思っていた。それほど気力も体力も充実していた。1月末に体調を崩し入院。そこでもベッドで本や朝鮮新報を読んだり、書き物をしたりした。孫に枕元でハルモニの一代記も収録されている本「生きて、愛して、闘って」(朝鮮青年社刊)を読んでもらったりして、一時は帰宅できそうな位まで回復した。その矢先の急変に、家族のショックも大きかった。弟嫁と共に付きっきりで看病した一人娘の車茂任さん(54)は、「オモニの存在はなくては生きていけない空気そのもの。今は酸欠状態です」と涙ぐむ。 ハルモニは20世紀を力強く歩んだ。苦難の中で、家庭を築き、子供を育て、民族の尊厳を守り通した一生だった。 話を聞いたのは、故郷訪問直後のことだった。1人だけ生きていた末弟や親せきたちと会えた喜びを語り、80年前、父から送られた「民族を守り大道を歩め」と記された大切な手紙を見せてくれた。7時間を経過しても祖国の解放まで話が進まず、翌日また訪ねた。大好きだった金日成主席に話が及ぶと「祖国に捧げた主席の労苦を思うと涙が止まらない」と言葉を詰まらせた。 艱難辛苦の歳月、笑顔を絶やさず、人を包みこんだ懐の深さ。葬儀には世代を超えた多くの人たちが集まり、その死を悼んでいた。(粉) |