「彼らはなぜボールを蹴ったのか」

「コリアンサッカーブルース」の著者
藤井誠二さん(ノンフィクションライター)に聞く


 「同胞のためにシュートを入れなければならない―」。93年。当時、Jリーグ・ジェフ市原に入団した申在範が放った言葉に興味がわいた。

 21歳の気負いともとれる発言。日本人にとってリアリティーのない、座りの悪い「同胞」という言葉がリアルだった。夢の大舞台に立つ興奮を伝える横顔、そして純真とすら思える同胞への思い。その2つを行き来する微妙な揺れを見つめ続けてきた。

 在日朝鮮蹴球団に籍を置きながらJリーグ・ジュビロ磐田でプレーし、現在はセレッソ大阪のコーチをつとめる金鍾成の「蹴球団へのこだわり」にも惹かれた。

 「朝鮮学校は長い間、高校総体や全国高校サッカー選手権に出場することができなかったし、蹴球団は公式戦に出ることを阻まれている。僕が活躍することによって、日本サッカー界の陰の、それも底に置かれていた在日サッカーを表に出したい」。ジュビロに入る時、金がはっきりと著者に告げた言葉だ。

 同胞のために、という彼らの言葉がどこから発されているのか―。

 半世紀の時空を越え、朝鮮総督府がサッカーにわく朝鮮民族の自立心をそぐためサッカー統制令を立案した事実、弾圧でさらに盛り上がった朝鮮のサッカー、解放後、差別に苦しむ同胞に勇気を与えた蹴球団のプレー。金らが発する言葉のルーツを探った。

 そして在日コリアンのプレーヤーを「不可視の存在」と表現する。

 Jリーグの外国人枠、特別枠の狭間に立たされ日本国籍を取得するかどうかまで悩む在日コリアン選手がいる。国家代表に選ばれた者は特別枠を利用できない、という理由なき理由でJリーグ入りを拒否されたり、新天地を求めて欧州のサッカーリーグに挑戦したものの、政治情勢に翻ろうされ、ビザの発給を拒否されサッカーを諦めざるをえなかったコリアン。差別、偏見、国籍、政治に翻ろうされた、一人ひとりの無念とやるせなさから浮かんだ表現だった。

 「日本のサッカー界は在日コリアンをはじきだし、同じスタートラインに立たせなかった。Jリーグの閉鎖的な特別枠もそのまま。朝高出身者が特別枠の対象となるには今でも高卒の資格が必要だ。ワールドカップにわき立つ今、コリアン選手を取り巻く状況が本当に変わったのか。足元を問いたかった」

 36歳。高校在学時から管理教育に反対し少年犯罪、犯罪被害の現場を追い世に訴えてきた。

 「在日コリアンにとってサッカーはスポーツ以上の意味を持つものだった」

 走り続けたコリアンサッカーの軌跡は今を生きる選手たちへのエールでもある。

 【発行所=潟Aートン(TEL 03・5459・2752) 定価1100円(税別)】

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