女のシネマ

きれいなおかあさん

障害児もつ母の奮闘


 現代中国の大都市・北京の下町。耳の不自由な幼い男の子と、女手1つで息子を育てることにけん命な母の、生と成長の物語。

 息子の障害がもとで離婚したリーイン。「息子は補聴器をつけている以外ほかの子と何も変わらない」とかたくなに思い込み、普通小学校の入学試験を受けさせた。息子ジョン・ダーは、発音不明瞭で不合格となった。が、あきらめ切れないリーインは、母親の自分が言葉を教えようと一念発起。昇進目前の外資系工場をやめ、無許可の露店商、新聞配達、パートタイムの家政婦など、子連れでできる仕事にありつく。ジョン・ダーの成長に全てをかけた、奮闘の日々が始まる。

 しかし、困難は次から次へとやってくる。ジョン・ダーがケンカで高価な補聴器を壊し、ケンカの仕方を教えた父親の事故死で、滞りがちだった養育費すら途絶えた。警察の取り締まりで露店も出せず、パート先の店主に暴行されそうになったり…。誰にも頼らず、女が1人で働いて子育てするうえでの悲哀と過酷さに、存分に泣かされる。

 一方、自我が芽ばえたジョン・ダーは、愛する母が自分を「人生の失敗作」と思っているのに、外に向かっては「普通」と言い張る母の自己矛盾に感づき始めた。補聴器をつけることを拒否することで矛盾に抵抗。この母子の葛藤の中でリーインは、他者との「違い」を自ら認め受け入れることこそ真に生きることの第1歩なのだと、障害をもつ息子本人によって気づかされる。

 映画は、急速に発展する北京の建築ラッシュの喧騒の中に、したたかで人情に厚い庶民の生活風景を取り込みながら、都市生活者の孤独、階層社会のひずみも浮き彫りにしている。

 新聞配達の荷台にジョン・ダーをのせ、大きな声で言葉を教えながら、雑踏の天安門広場を駆け抜けるリーインの姿は、凛としていてすがすがしい。ジョン・ダーを大きく包み愛するきれいなおかあさんに拍手! スン・ジョウ監督、90分、中国映画、日比谷シャンテ・シネにて。(鈴)

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