それぞれの四季

「あなたは朝鮮人?」

李明玉


 夫は、大阪人の例にもれず阪神ファンである。今日の相手は、彼の言うところの「宿敵―金満球団」。九回裏、負けている。打席に今シーズン大活躍のバッターが立つ。略歴が映る。私と同じ大学の出身者だ。年齢からして、在学期間も重なっている。ヒット。夫が叫ぶ。

 「よっしゃ! お前は偉い。こいつは間違いなく朝鮮人や」。あきれた私は「誰でも朝鮮人だね。だいたいこんな通名ないでしょ」と言いながら、子どもたちの歯磨き点検にかかる。夫は意外そうな顔で、よくある通名だと言う。

 塁に出た彼の姿をじっと見つめる。朝鮮人だったのか(推測にすぎないが)。こんな通名があると知っていたなら、留学同に誘っていたのに。当時の私たちは、学内の同胞学生すべてを誘おうとしていた。クラス分け表で、それらしい名前を拾って、一人ひとり訪ねる。授業直前の教室へ行き「国籍はどちらですか」と聞く。金と書いて「こん」と読む日本人がいること、国籍を問われているのに、ほとんどが「○○県」と本籍を答えることを知った。

 1人も見つからず、他の方法は思いつかず、自分の授業には出られず、名前が目立つので代返は引き受けてもらえず。重い足取りで留学同事務所へ。「肌が青かったらいいのに」「そしたら歴史はもっと過酷だったかも」などと話していると、他大学の先輩が帰って来る。「朝鮮人を嗅ぎ分ける犬が欲しいな。名前は『動員犬』」。

 埋もれてしまうことでは解決しないことがたくさんあると考えてきた。後輩たちもそうだろう。しかし、本当のところ彼はどうなのかと、興味津々である。(主婦)

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