「有事」の狙い―識者と考える (2)
過去の亡霊に全力で抵抗を
鵜飼哲さんとパレスチナ
パレスチナの現実。「この人々、この社会が、米国政府の認可のもとに、国連決議も、国際法もじゅうりんして際限なく壊し続け、殺し続けることを許されているイスラエル軍によって確実に壊滅させられようとしている」と鵜飼さんは喝破する。優位な武力を頼んで攻撃、殺りく、破壊、挑発を繰り返し、「反撃」を受けるとそれを「テロリズム」と呼んで、占領地域をさらに拡大する。圧倒的に殺されているのは、パレスチナ人であり、その加害責任は、イスラエル軍にあるのだと。 今や誰の目にも明らかだ。ブッシュ政権の登場によって、アフガンへの武力攻撃やイスラエル軍のパレスチナ大侵攻などが、1つの流れとなって、世界の危機を作り出している。 ブッシュの「反テロ戦争」の口実に使われた「正義」や「悪」「文明」や「野蛮」という言葉。その延長線上にある「悪の枢軸」発言。ブッシュの言う「正義」と「善」の名の下に、アフガンの殺りくもパレスチナの大虐殺も正当化され、おそらく将来予想されるのが、イラン、イラク、北朝鮮という「ならず者国家(rogue state)」への非道な侵略戦争である。 鵜飼さんはrogueという言葉に注目する。「この原語は『はぐれた獣』を意味する。つまり、人間の外にあるもので、何をしようが勝手、という甚だしい人種差別的な意味がこめられている。そして、この言葉には、日本がかつて朝鮮で『利益線』や『生命線』の論理を持ち出して勝手に侵略して、植民地にした100年前の歴史との連続性がある」。 ブッシュの掲げる反テロリズムと「ならず者国家」の論理とかつての日本帝国主義のアジア侵略の共通性。近代日本はかつて自分の利益のために、軍隊を出兵させ、アジア全域で2000万人というおびただしい犠牲者を生み出した。現行の日本国憲法9条の下で、国権の発動である戦争行為そのものを認めず、陸海空軍その他の戦力の保持を禁止しているのも、その悲惨な歴史に由来する。 鵜飼さんは最近の報道で明らかになったように、海幕がイージス艦などのインド洋派遣を日本側に要請するよう促した対米海軍工作などの海外派兵と連動した改憲の動きを警戒する。 「ベトナム戦争末期のニクソン・ドクトリンに示されているように米国は『アジア人をしてアジア人を戦わせる』ことを明確にした。この戦略通りに日本をコントロールしようとするのが有事法制である。その先にあるのは『米国の手先になって日本はアジアと戦え』ということである」 この動きと全く正反対な劇的な動きが、2年前の朝鮮半島の緊張と和解、統一を促す南北首脳会談だった、と鵜飼さんは高く評価する。「両首脳が米国に送ったメッセージは、帝国主義をやめなさい、ということだった。ある時期、朝鮮半島でクリントンはこの呼びかけに一部応答したこともあったが、『世界中の資源や油田をコントロールしたい』ブッシュがそれをまた、引き戻してしまった」。 米国の手先となって軍事大国化への道をひた走る日本。鵜飼さんは、94年の核疑惑騒動で暴露されたように、東アジアで戦争を誰よりも望んでいるのは、日本の改憲・右派勢力だけ、だと見る。「その勢力が日増しに増殖し、9.11以降、悪乗りする形で、異議を封じ込め、『朝銀事件』を利用して、個別の利害を追求している。『北朝鮮の脅威』を言うなら、なぜ、日本海側にあんなに多くの原発を作ったのか。『北朝鮮の脅威』という発想自体が当時、日本には全くなかったからである。冷戦後にあわてて作り出したまやかしに過ぎない」。 鵜飼さんは問う。「そもそも、戦前、有事を自作自演で作り出したのは日本の国家であり、軍部ではなかったか」と。かつての軍隊がアジアで朝鮮でいかに傍若無人にふるまったかを一つ一つ検証し、過去の亡霊が回帰しないよう、全力をあげて抵抗していきたいとキッパリと語った。(朴日粉記者) |