同胞高齢者と介護保険制度

2年経過、問題点そのまま

洪東基(大阪・共和病院医療福祉相談室、介護支援専門員)


 高齢化社会を支えるため社会保険方式で介護サービスを提供する介護保険制度が発足し2年がたった。サービスを提供する人員や施設の整備の遅れ、低所得者への配慮不足など、制度の不備を指摘する声が多々あるが、同胞高齢者の場合はこれに加えて制度的差別による無年金高齢者の存在をはじめ固有の不安材料がある。問題点を整理した。

 私は、制度発足前から同胞高齢者にとっての介護保険制度は日本人高齢者に比べて利用しづらいと指摘してきた。とくに1人暮らしの1世同胞は、行政の的確な配慮がなければ制度を活用することが難しい。日本語が不自由だと、制度に関する情報を把握することすら困難だ。

 私が問題点として挙げてきたのは次の4点だ。

 @無年金者は保険料をどうやって支払うのか

 介護保険料は特別徴収(年金受給者)がほとんどだが、年金受給者の少ない同胞高齢者は普通徴収となり、医療保険に上乗せて直接支払うことになる。果たして制度を理解していない同胞高齢者がすんなり保険料を支払うだろうか。

 Aサービス利用時の1割の自己負担をどのように支払うのか

 保険料を払えばサービスは受けられるが「無料」ではない。かかった費用の1割は負担しなくてはならない。保険料の支払いもままならない同胞高齢者が、1割の利用料を支払ってまでサービスを受けるのか疑問である。

 B言葉の壁は介護認定を左右しかねない

 介護サービスを受けるためには要介護認定を受けなければならない。その際、介護支援専門員(ケアマネジャー)の訪問調査を受けなければならないのだが、日本語が不自由な同胞高齢者の場合、日本人調査員と十分なコミュニケーションが取れず、公正な認定が望めない可能性が高い。

 C介護者とのコミュニケーションをどうするのか

 介護計画を立てる介護支援専門員やサービスを提供するヘルパー、施設のスタッフに同胞が少ない現状で、現場は必ずしも同胞が同胞高齢者を介護できる状況にない。歴史的背景や文化の違う同胞高齢者が満足する介護サービスが施されるのか。

 これら4点は、いまだ問題点として残っている。

 さらに、制度発足から2年たった現在浮上している問題点を伝えたい。

 @保険料未払いによる「給付制限」の対象者が後を絶たない

給付制限の流れ

通常 介護保険料の1割は個人負担、9割は保険給付

1年以上滞納すると

介護保険料の支払方法が変更される。いったん全額支払い、後に9割が戻る償還払いに

1年6ヵ月以上滞納すると 保険給付が一時差し止められ、さらに差止保険給付額から保険料が控除される。いったん保険料を全額払い、滞納保険料が控除された後、保険給付の残額が支給される

2年以上滞納すると

時効により保険料が納付できない。時効になった未納期間がある場合、今後の保険給付は9割から7割に制限される。つまり個人負担が1割から3割に。

 前述したように年金のない同胞高齢者の場合、医療保険に上乗せて介護保険料を納めることになる。未払いの場合、役所から「督促状・納付書」が郵送されてくるが、同胞高齢者の場合果たして開封してそれらに対処するのであろうか? ほとんどの場合放置しているケースが多いという。

 介護サービスを受けていても、新たに「要介護認定」を申請する場合も「保険料未納」が判明された場合、第1号被保険者の保険料納入起算日(2000年10月)にさかのぼって収めないとサービスは受けられない。2年以上保険料を滞納すると本来は1割負担の介護サービス利用料が3割になる。介護保険料が未払いになると、いざサービスを受けようとしてもきつい縛りが待っているのだ。

 A同胞高齢者の財産管理は万全か

 高齢者の財産管理として「地域福祉権利擁護制度(民法の成年後見制度を補完するもの。痴呆高齢者など自己決定能力の低下した人の福祉サービス)」があり、従来の「禁治産者」のように裁判所の繁雑・面倒な手続きが簡素化し高齢者の財産が保全される制度が確立されつつある。

 最近の事例として、介護サービスを受けている独居の同胞高齢者が高額な財産の持ち主であることがわかった。幸い身内の方が最終的に管理することになったため大事には至らなかったが、管理方法を巡ってはさまざまな紛糾があった。介護支援専門員が利用者の財産を管理することについては論議されているところだが、いずれにしても公的な制度を利用するのが無難であろう。

 しかし、植民地支配の経験から行政に根強い不信を持つ同胞高齢者が「公的な制度」を安易に利用するとは思えない。

 大阪府の調査では、施設の介護サービスについて不満を述べる同胞高齢者が多かった。現行においても、同胞高齢者の介護サービスの利用率は日本人よりかなり低いとされている。

 制度が強制加入である以上、公平な利用をはかるためにも今後、同胞を対象にした多様な介護サービスを行う事業者が増えることが望まれる。すでにある制度・施設の中で、せめて食事、文化、言葉などの配慮が行われるよう、自治体などに求めていく必要もある。

 それを担うのが周囲にいる同胞や同胞生活相談綜合センター、分会だ。同胞高齢者に親身に対応する「良心的な事業者」と常に連携し情報を共有化すること、自治体に同胞高齢者のニーズを反映する窓口になってこそ、山積みの課題が解決される。

介護保険制度の実施状況

全国の被保険者数

第1号被保険者 65歳以上 2317万人(2002.3月末)
第2号被保険者 40歳〜64歳の医療保険加入者 4255万人(2002年度見込)

要支援・要介護認定者数 298万人(2002年3月末現在)
(うち65歳以上 288万人〔被保険者の12.4%〕)

・要支援  30.0万人
・要介護1 87.5万人
・要介護2 56.3万人
・要介護3 38.8万人
・要介護4 38.9万人
・要介護5 37.7万人

介護保険制度におけるサービス内容

 「要支援・要介護」と判定されると、本人や家族は、体の状態に応じて判定されたランクの費用の範囲内で、ケアプラン(介護サービス計画)を立てる。ランクは在宅介護で6段階あり、入所施設もいくつかの種類がある。プランは自分たちで作成しても良いが、地域の介護保険事業所や介護保険施設にいる介護支援専門員(ケアマネジャー)に依頼するのが一般的になりそうだ。この際の費用は、保険から全額給付される。利用できるサービスは、体の状態によって在宅介護と施設入所とに分かれる。

 在宅介護の内容は、専門のセンターに高齢者を送迎し、入浴、食事、健康チェック、日常動作訓練を行う「デイサービス」、特別養護老人ホームで短期間、高齢者らを預かる「ショートステイ」、ヘルパーが家庭を訪問して介護・食事サービスを提供する「ホームヘルプ」などがある。

 入所できる施設は特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群(病院)がある。

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