仲間と会える「至福の時」

エルファ開設のデイサービス施設「ハナマダン南京都」


 京都コリアン生活センター「エルファ」(鄭禧淳理事長)が6月21日、宇治市・ウトロの南山城同胞生活相談綜合センターに開設した同胞高齢者向けのデイサービス施設「ハナマダン南京都」。「こんな場所を作ってくれるなんて夢にも思わなかった」――。強制立ち退きの危機にさらされているウトロの同胞にとって、昔なじみの隣人と顔を合わせ過ごせる場は悲願だった。

見違える表情

時間がたつにつれ、ハルモニたちの表情はみるみる明るくなる

 オープン2日目の6月25日の来客は5人。到着するや脈拍と血圧を測り、希望に応じて入浴も施される。

 「オモニたちー。今度は踊ってみましょう」。ヘルパーの金斗林さん(56)の呼びかけで「エルファタリョン」を歌ったり、簡単な体操をしながら体を動かしていく。

 昼食は女性同盟南山城支部メンバーの手作りの朝鮮料理。その後はビデオ鑑賞をしたり、ヘルパーたちと話をしながら親睦を深める。最後はカラオケ。はじめは緊張した面持ちのハルモニも、懐かしい故郷の歌を聴くと表情がみるみる明るくなり一緒に口ずさむ。「ハナマダン」で1日過ごすと、驚くほど表情が変わっていくから不思議だ。

 「日本のデイハウスにも通っているが、ここはみんなとすぐに心が通じる」(林月任さん、79)、「何よりも故郷のことを同胞と話せるのがいい。同胞高齢者が1日中遊べる所なんてほかにはない」(李扶伊さん、89)。ハルモニたちは一様に目を細めていた。

高齢者多い地域

 宇治市、田辺市、八幡市などを抱える南京都地域には4000人を超える同胞が住んでいる。他地域に比べ高齢者も多い。「エルファ」が昨春に建てた南九条のデイサービス施設に行くには車で1時間半。体の不自由な1世が足を延ばすには負担が重かった。

 こうした南京都地域の利用者の状況を考慮して生まれた「ハナマダン」を、地元の総聯、民団が手を携え、サポートしている。今年に入って両団体は、地域の同胞高齢者を訪ねてはデイサービスの説明を重ねてきた。

 6月14日の開設祝賀会。30人近い同胞高齢者とともに総聯南山城支部の金学福委員長、民団南京都支部の李基安団長、崔忠植議長らも顔をそろえ喜びを分かち合った。

 金委員長は「感無量。総聯と民団が力を合わせ、異国で苦労を重ねてきた1世に恩返しをしたい」とあいさつ。民団の崔議長も、父が晩年にウリマルを話しながら徘徊していた事実に触れながら、「年老いた同胞は自分の国、仲間を探し求めるものだ。涙が出るくらいうれしい」と喜びを隠さなかった。

ウトロにできた意義

 同胞高齢者のための介護施設がウトロに開設された意義は大きい。ウトロの土地問題は、一昨年11月の最高裁判所の上告棄却決定により住民全員の退去判決が確定。同胞高齢者たちはいつ住まいを奪われるかも知れない危機にさらされているからだ。ウトロに住む68世帯中、36世帯が高齢者を抱えており、12世帯が独居老人だ。

 日本の侵略戦争遂行のための飛行場建設に駆り出された同胞が、解放後もそのまま住むようになったここウトロだ。歴史的経緯からしてもウトロに住む同胞の住居を確保する責任は日本政府にある。

 しかし、退去判決が出た状況で住まいの確保は待ったなしの課題だ。総聯、民団は3月に合同調査団を結成、行政に対し代替住宅の確保を求める要請を重ねているが、住民の不安が消えることはない。

 昔なじみの仲間と一緒に暮らし続けることはウトロの1世の悲願。「ハナマダン」は1世の切なる願いを実現したものだった。(李松鶴、張慧純記者)

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