生活相談 きほんの き―9

Q 夫婦で自営、500万の借金 自己破産の手続きは?

A 弁護士、司法書士へ依頼→裁判所審尋→債務免責


 私たち夫婦は自宅で縫製業を営んでいます。

 サラ金と信販会社から約500万円の借金があり、毎月約15万円の返済が必要です。しかし不況のため、現在の収入は月約20〜30万円程度しかなく、自己破産の申し立てを考えています。

 なお、信販会社からの借金は、工業用ミシンとプレス機を購入した時のもので、妻が連帯保証人になっています。また、ミシンとプレス機はこの借金の担保になっていますが、現在処分しても数万円程度の価値しかありません。自宅は賃借りしているものであり、他にめぼしい資産はありません。

 借金さえなければ、細々と縫製業を続けながら生活をできます。破産すると仕事もできなくなるのでしょうか。自己破産の手続きについて教えて下さい。

 長引く不況は、中小零細企業を営む同胞を直撃していますが、前述した相談はその一例です。

 それでは「自己破産」について説明していきます。

 「破産」とは、債務者が経済的に破たんし、すべての借金を完全に返済することができなくなった時、債務者の生活に不可欠なものを除く全財産を処分して、すべての債権者に債権額に応じて公平に弁済することを目的とする手続きです。この破産は、債権者が申し立てることもできますが、債務者自ら申し立てるものを自己破産といいます。

 自己破産の手続きは、通常弁護士・司法書士などへの依頼→債権者への通知→申し立て→破産審尋→破産宣告→免責申し立て→免責審尋→免責決定の流れで行われます。審尋とは、裁判官の面前で破産にいたった事情などを聴かれる手続きで、手続き終了まで最低2回は裁判所へ行きます。期間は、事案により異なりますが、スムーズに進めば約6カ月以内で終了します。

 破産の宣告を受けた後、免責の決定を受けて初めて債務の支払い責任が免除されます。

 なお、破産申し立てを行うことを債権者へ通知した時点で債権者からの取り立ては止みます。

 債務者がめぼしい資産を有していない場合、財産を処分し配当するということができないので、破産の宣告と同時に破産手続きの廃止の決定が出されます。これを同時廃止と言います。零細事業主や消費者破産の事案では同時廃止がほとんどです。

 破産申し立てのメリットは、免責決定を受けることで、借金を支払う必要がなくなることです。デメリットは、弁護士、会社の取締役、監査役になれないことなど一定の資格制限があること(免責決定後復権します)、信用情報機関のブラックリストに載り、約5〜7年間融資を受けられなくなることです。

 また、債務者が破産免責の決定を受けても、保証人の責任はなくなりません。

 なお、弁護士に破産申し立てを依頼する場合約30〜50万円程度の費用がかかります。

 相談の事例では、担保に取られているミシンとプレス機が問題になります。相談者の妻が保証人として支払いを続ける場合はそのまま使えます。妻も夫と一緒に破産を申し立てる場合は、親類や知人などにこれらの機械を買い取ってもらい、今まで通り使用を続ける方法があります。

 破産についての一般的な偏見や誤解で、破産すると一生惨めな生活を送ることになるのではないかとか、債権者からいやがらせを受けるのではないか、親や子に迷惑がかかるのではないかなどがあります。しかし、親子親類などに影響はありません。前述したように、破産申し立ての通知後、債権者による取り立て行為は禁止されており、実務上も無意味ないやがらせを行う債権者は極めてまれです。

 また、破産宣告後に得た財産は自由に使えるので、破産により生活を立て直して行くことができます。(梁英哲・弁護士、在日本朝鮮人人権協会近畿地方本部会員)=本連載は今号でおわります。

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